昼の太陽④
彼女と弁当を食べていたら、何気ない質問を投げられる。
「それにしてもさ、屋上なのに綺麗だね。ここ。落ち葉一つないしさ」
「あぁ、それは僕が勝手に掃除をしたからね」
「悪いことしてるね」
屋上は彼女の言う通り落ち葉一つない。誰も出入りしない屋上なのに、こんなに綺麗なのは僕が勝手に掃除していたからだった。
初めて屋上に入った時は、落ち葉やらゴミやらでとてもじゃないが綺麗とはいえなかった。弁当を食べるなんてもってのほか。
僕は弁当を一人静かに食べるため、こっそりと掃除道具を学校に持ち込んでいた。昼休みの時間になれば、鞄ごと屋上に持ってきて掃除をしていた。そのため、掃除と弁当を食べる時間に追われて、最初のうちは弁当を掻き込むように食べていた。
だけど、一ヶ月ちょっと掃除した結果、弁当を描き込まなくても済むようになった。今でも、汚くならないように定期的に掃除はしている。
「掃除して綺麗にしてるから打ち消しだよ」
「そういうもんかなあ?」
「そういうもんだよ」
入ってはいけない場所に入り、勝手に掃除をしている。打ち消しどころか、罪は倍増している。罪を見ないふりをして僕はいつもここで弁当を食べる。
「君はさ……」
彼女が言葉を途中で途切れさせる。ご飯が喉に詰まったのかと思って、お茶を渡そうとするけどいらないと首を振られる。
「私達ってさ、名前知ってるのに君とかで呼びあってるよね?」
「うん、そうだね。それがどうしたの?」
「やめよ。君とかで呼び合うの。秘密を共有する仲になったんだしさ、名前で呼びあおうよ」
僕は別に誰に対してものを言っているか、それが通じればよかった。彼女は違うらしい。真剣な眼差しでこちらを見ている。
「名前ぐらい好き呼んで」
「じゃあ、音成くん?なんか違うなあ。音くん?琴くん?あっ、琴くんが一番しっくりきた。これから琴くんって呼ぶね」
彼女は色々な候補を口に出していき、一番しっくりきた琴くんを選ぶ。幼稚園の先生にその名前を呼ばれていたため、少し抵抗があったけど、好きに呼んでくれと言った手前それを受け入れるしかなかった。
「琴くんは私の事なんて呼んでくれるのかな?海ちゃん?」
「月海さんでいいでしょ」
彼女の提案が元々なかったかのように無視をする。
「シャイなんだから。下の名前で呼んでくれることは無いの?」
「君が学校からいなくなる時とかじゃない?」
「言ったね?その時は本当に読んでよ?下の名前で」
僕は冗談ぽく言ったつもりだったが、彼女は真面目なトーンで返してくる。
彼女が学校からいなくなる時なんて、卒業の時しかないと思うが卒業の時に呼んで欲しい、という意味なのだろうか。
「その時は呼ぶよ。約束する、天に誓ってね」
「男に二言はないからね。はい決定!」
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