第2話

 アリーアが城に帰ったのは、それから凡そ一時間後のことだった。


「ただいま〜」


 元気よくアリーアは言う。まだ元気が有り余って


いるというのか。げっそりとしてアリーアを見たグ


レイスは彼女を迎えた。


「お帰りなさい。いろいろ言いたいですけど、早く


着替えて下さい、今日は客が来ると言ったでしょう


が」


 すっかり忘れていた。……グレイスを怒らせて


しまったなと反省する。いつものことだから


と慣れてはいけない。


「うん。グレイス、今日の仕事が終わったら明日、


明後日有休ね。絶対よ」


「……なんですか、いきなり」


突然そのようなことを言うアリーアを訝しむような


目で見る。そんなにおかしなこと言っただろうか?


 普段の自分はあまり言わないのかもしれない。


自主的に休みは取れ、早めに帰れと言ってはいる


けれど。


「うーん、気まぐれ? 」


 嘘だけれど。大半は自分のせいだが、こうでもし


ないと、仕事を押し付けられど全てをこなす


真面目な彼は休まないだろうから。


 今度、彼に押し付けないでしっかり仕事をしよ


う。アリーアは内心、決めた。グレイスは、まだ怪


しんではいたが、素直に受け取った。


「……はい、ありがたく受け取らせていただきます」


 それから暫くは二人で談笑しながら、もう一人を


待った。


 ……床を叩くヒールの音が聞こえてきた。アリー


アが顔を向けると、何やら武装した、しかし軽装な


女性が歩いてきた。


 薄桃色の長い髪をポニーテールにし、まるで獲物


を捕らえるかのような鋭い琥珀色の瞳を持った、整


った顔立ちだ。その顔は、誰もが知っていた。


 アリエル•ヘンリエッタ。マシュマロ大陸に名を


馳せた格闘家だ。大陸で二年に一度開かれる武闘大


会で毎回上位に入る実力者だ。その美しくも牙のあ


る猛獣は、深い息を吐く。


「女王、ここに呼び出して何なの?」


「ごめんね。用事があっただろうけど、ここにあな


たもいた方が良いと思ってね」


「私もいた方が良いってどういうこと?」


 勘も鋭く、頭が切れるアリエルでさえも、アリー


アの意図を読み取れない。しかし、嫌な予感がする


のは気のせいだろうか。


「女王、連れて来ました」


 マリアンヌが静かに告げる。彼女は二人の男を引


き連れていた。


 一人は、濃い金の髪に、緑の瞳、少し浅黒い肌の


男。もう一人は、青葉色の髪に、灰の瞳、色白の肌


を持った男だ。


「ライアン•グリンデルバルト。オーディン•グラデ


ィス。良く来てくれたわね、歓迎するわ」


 二人は、アリーアに挨拶をした。恭しく、敬意を


感じ取れるものであった。


「改めまして、モンブラン王国格闘家。


ライアン•グリンデルバルトです」


「同じく、モンブラン王国専属魔術師の


オーディン•グラディスです」


 二人の姿を目に映したアリエルは、額に手を


当て、息を吐いた。やはり、気のせいでは無かっ


た。アリエルはげんなりとした。アリーアが言った


意味はこういうことだったのかと。


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ロール国女王の憂鬱な日々 雛倉弥生 @Yuzuha331

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