9
こんな風に大声まで張り上げて大泣きしたのは、いつ以来だろう。小学四年生の時に出場した大会で思い切り顔面から転んで、そのせいで人生初の予選落ちした時以来だろうか。悔しくて、情けなくて、隠れて一人で泣いたっけ。
あの時も確か今日みたいに人に見られて……、そうだ。その時に見られた人は、変人だった記憶がある。ぼんやりとしか覚えてないけど、人が泣いてるのに妙に突っかかってきて。「どうして泣いているんだい?」とかなんとか、おかしなことばかり聞いてきたっけ……。
なんて。
どうして昔のことまで思い出してしまったんだろう。ますます羞恥心にかられたオレは、同じくベンチに座っている先輩の胸に頭を預けたまま、気恥ずかしさから、ぎゅっと下唇を噛みしめる。
目も鼻もひりひりして、ひどく痛む。鏡を見なくても分かる。ピエロの鼻みたいに真っ赤になってるって。
その上、先輩の服は、オレの涙やら鼻水やらで、すっかりぐしょぐしょに……。それなのに先輩は、なに一つ文句を言わない。ただオレの頭を優しくなでてくれている。
なんだろう、すごく落ち着く。こんな気持ち、初めてで。先輩には悪いけど、もう少しだけでいい。このままでいたい……。
なんて思ったのも束の間。突然後ろから、がさがさと不審な音が聞こえてきた。ふいと振り向くと、
「うわあっ!!?」
視線の先の茂みの中から、ばたばたと複数の人影がなだれ落ちてきた。その光景にオレの目玉は、ぎょっとデメキンみたいに大きく飛び出した。
「なっ、なっ……!??」
なんで、みんないるんだよ——っ!!?
地面に転がっているのはアッキーにシューイチ、ヨッシー先輩にマミコ先輩、それからリアとショウコ。その後ろには、きーちゃん先輩にルネ、ロミまでいる。つまりは演劇部全員だ。
もしかしてオレたちのこと、ずっと尾行してたのか? 全部見られてたのか……?
だめだ、死のう。
もし目の前が断崖絶壁だったら、オレは一抹の躊躇もすることなく確実に飛び込んでいただろう。顔も頭も背中も手足も、全部が高度な熱を持つ。火にかけられたヤカンの気分だ。
だけど残念ながら目の前は崖ではない。そして、オレはヤカンでもない。みんなのことをにらむことしかできないでいると、シューイチがズボンに付いたほこりを手で払いながら立ち上がって、
「よかったなあ、ジュリちゃん。部長に優しくなぐさめてもらえて」
にたにたしながら言いやがった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます