7
足が自然と止まり、息を吸っては吐き出して乱れた呼吸を整える。
「ははっ。また、僕の勝ちだ」
オレより先に向こう側へと到着した先輩は、「また」を強調させ、にこりと憎たらしい笑みを浮かばせる。
思い込みの激しいだけの、演劇バカの先輩にも勝てないなんて。
……本当に終わったんだ。オレは、ようやくその事実を受け入れた。いや、受け入れざるをえなかった。
見上げた空は、きれいな夕焼け色に染まっていて、嫌味なくらい、まぶしくて。炎のように燃え上がったオレンジが、オレの瞳を鋭く突き刺す。まるで目を焼き潰そうとしているようだ。
このまま焼いてくれればいいのに、この体ごと全て。そして灰になって、風に流されて跡形もなく消えてしまえればいいのに。
消えてしまえれば——……。ああ、そうだ。どうしてもっと早く気付かなかったんだろう。こんなにも簡単なことだったんだ。
そうだ、消えちゃえばよかったんだ。自分で消してしまえば……。
だけど突如体が引っ張られ、一方的に現実へと引き戻されると同時、オレの体はやわらかな温もりに包まれる。
先輩……?
それがミオ先輩だと認識するのに時間がかかったのは、きっと、いつもの抱擁とは違っていたからだ。
先輩は、オレの頭に右手を添える。先輩の大きいそれに支えられ、先輩との距離がぎゅっと縮まる。先輩の髪が首筋をかすめる。くすぐったい。
先輩は、
「樹里——」
とオレの名をひどく優しく紡ぎ、
「君が本当に望むなら、僕は。……君を止めることはできない。君は本来いるべき場所に」
先輩は一度そこで区切ってから、
「戻るべきだ——」
その一言がオレの脳内を強く揺さ振る。
戻るべき場所……? もしかして、ここのことを言っているのか?
……先輩まで、そんなことを言い出すなんて。
だめだ、もう。——限界だ。
オレは力の限り先輩のことを突き飛ばす。先輩の右手が、体が、一瞬の内にオレから離れる。
「なんでっ……、なんでそんなこと言うんだよ! もう、無理なんだよっ! あの頃みたいに走れないんだよっ!!」
リハビリすればいい? 努力すればいい?
そんなの、いくらしたって無駄だ。オレのことだ、オレが一番分かってる。
体が、足が、鉛みたいに重くなって。もうあの頃みたいに枷もなく走ることはできないって。努力だけではどうにもならないって、分かってる。走る度に心底思い知らされたんだ。
あそこは、フィールドは、オレの全てだった。オレの居場所で、オレの中心で、オレの砦で。オレにとって唯一無二の。
だけど——。
「アンタなんかにオレの気持ちが分かってたまるかっ——!!」
「ああ、分からない」
なっ……。そんなにはっきり言うか、普通。
間髪入れずに返してきた先輩に、オレはつい面を食らってしまう。
だけど先輩は変わらぬ表情のまま、
「だって君はまだ、ぶつけていないではないか」
と紡いだ。
「なんでっ……、なんでそんなこと言うんだよ! もう、無理なんだよっ! あの頃みたいに走れないんだよっ!!」
リハビリすればいい? 努力すればいい?
そんなの、いくらしたって無駄だ。オレのことだ、オレが一番分かってる。
体が、足が、鉛みたいに重くなって。もうあの頃みたいに枷もなく走ることはできないって。努力だけではどうにもならないって、分かってる。走る度に心底思い知らされたんだ。
あそこは、フィールドは、オレの全てだった。オレの居場所で、オレの中心で、オレの砦で。オレにとって唯一無二の。
だけど——。
「アンタなんかにオレの気持ちが分かってたまるかっ——!!」
「ああ、分からない」
なっ……。そんなにはっきり言うか、普通。
間髪入れずに返してきた先輩に、オレはつい面を食らってしまう。
だけど先輩は変わらぬ表情のまま、
「だって君はまだ、ぶつけていないではないか」
と紡いだ。
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