第4幕:Hang up philosophy!

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「ああ、ジュリエット。君は、どうしてジュリエットというんだい?」

「さあ、分かりません。そんなことよりミオ先輩、教室に戻らなくていいんですか?」

「あと数分で授業が始まりますよ」とオレは忠告するけど、果たして先輩の耳に届いているだろうか。いいや、答えはノーである。

 ミオ先輩は遠くを見つめて、

「愛する君のそばにいられるのなら授業なんてどうでもいいのだよ」

と答える。期待を裏切らない、予想通りの返答だ。

 しかし。

「いい訳ないだろっ!」

 瞬間、ミオ先輩が大きく吹き飛んだ。怒声とともに現れたのは、つり上がった目をさらに鋭かせたヨッシー先輩だ。

「こらあっ、演劇バカ! ジュリには近付くなと言っただろうが」

とヨッシー先輩は、拳を大きく振り回しながら叫ぶ。

「ふっ、パリスよ。愛というものは、障害があればあるほど燃え上がるものなのだよ」

「だからパリスって言うな! どうしてお前は一々人の癇に障る言い方しかできねえんだよ!」

 ヨッシー先輩はミオ先輩の胸倉をつかむと、ぶんぶんと大きく振り回す。

 ヨッシー先輩のおかげでミオ先輩にくっ付かれる頻度は減ったものの。オレの周りは、ますます騒がしくなってしまった。本鈴が鳴り、ミオ先輩はヨッシー先輩と先生の二人に引きずられるような形で教室から出て行く。

 なんだかなあ。どうしてこうなっちゃうんだろう。

 先輩の声を遠くに聞きながら、オレは自身の境遇を心の底から呪った。

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