6
さすが関西人だな……って、あれ。シューイチって、関西人だっけ? 確かに口調は関西弁みたいだけど、ところどころ間違っていて胡散臭いし。
そう言えば、オレはまだシューイチだけじゃなく、他のみんなのことも、もちろんミオ先輩のことも知らない訳で……。
ああ、本当だ。オレってば、まだまだ知らないことばっかりだ。
そんなことを考えていたオレの気持ちが分かったのか、シューイチは、
「そうやで」
と言ってから、
「それにだめな分、成長も早いかもしれへんやん。練習なら、なんぼでも付き合ってやるさかい、もう少しがんばろうや」
にたにたと気味の悪い笑みを浮かばせる。
「まあ、最初も言ったけど、嫌なら無理しなくてええんやで。そうか、そうか。ジュリちゃんには舞台で演技する度胸なんてあらへんか。そうやなあ。ジュリちゃんは見た目だけじゃなく、中身も女々しいんやなあ」
なっ……、なんだって……。
「誰が女々しいだって……!?」
シューイチのヤツ、どこまでオレをバカにすれば気が済むんだ。そこまで言われて黙ってられるか。
こうなったら、やってやる。ああ、やってやろうじゃないか……!
シューイチの言う通り、確かに始まったばかりだ。演劇部に入部したのはミオ先輩との賭けの結果だけど、まだなにもしてない内から逃げ出すのは性に合わないし、それ以上に悔しい。
いいや、バカにされたまま終われるかっ……!
なんて決断した束の間。
「……つけた、やっと見つけた……!」
がしりと突然肩をつかまれ振り向くと、ぜいはあと荒い息遣いをした変質者が立っていた。オレの喉奥から思わず、ひいっ、と短い悲鳴がもれた。
その変質者は、よく見るとヨッシー先輩で。先輩は乱れた息をそのままに、オレの肩をさらに強くつかんだ。
痛い、痛いっ! あの、爪がくい込んでいるんですけど……!?
「見つけた、オレの身代わり……!」
「身代わりって、あの、先輩……?」
「おい、お前。演劇部、辞めるなよ!」
「えっ?」
「いいか、絶対に辞めるなよっ!!」
ぐわっと噛み付かんばかりの勢いで、ヨッシー先輩はオレの鼻先まで顔を近付けた。その鬼面は肯定以外の答えは与えてくれず、つい、こくこくと何度もうなずいた。
「ジュリエットー! ああ、ジュリエット、こんな所にいたんだね。心配したんだよ。
さあ、早く部室に戻ろう……、ん? ヨッシーよ。いくらジュリエットが美しくとも、僕の愛しい彼女に気安く触れないでいただきたいのだが」
「うるせえ、この演劇バカ! いいか、ジュリには二度と近付くな」
「ほう……。パリスよ、僕から愛するジュリエットを奪うつもりかい?」
「一々気持ち悪い言い方をするな! コイツのことはなんとも思ってねえが、また今日みたいにお前のせいで機嫌を損ねて、厄介なことになるとオレが困るんだよ」
「あの、二人とも……?」
ミオ先輩とヨッシー先輩との間で、バチバチと(ヨッシー先輩から一方的にだが、)激しい火花が散っている。
その火の後始末をちゃんとしなかったことを、後日後悔させられることになるとは。この時のオレは露も思っていなくて……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます