クローディアの聖杯

アーカムのローマ人

逢瀬

 小川の水面を打つ雨の音にクローディア・デーンが目を覚ますと、既に空は雲で暗く閉ざされていた。立ち上がった彼女は茂みの陰の草がすっかり倒れているのを見て頬を赤らめ、ワンピースの裾に泥がつくのも構わず、村外れから自邸に向かう道を足早に歩き始めた。三つ編みにした栗色の髪が、ふくよかな丸みを帯びた胸の左右で揺れる。硬い地面に寝た後で道もぬかるんでいたが、彼女の足取りは村に帰ってきてから一番軽かった。

 二十四歳になったばかりで、水泳で鍛えられた健康な肉体を持ち、今は休学して生家に戻っている最中でも、クローディアはいつも疲れていた。春が訪れ、彼女が世話をしている庭にも花々が咲き始めると、彼女はますます鬱々とした。同居している母親と兄も、庭のスミレもその後に咲くオダマキも、生きとし生けるものは彼女の上に重くのしかかって眉をひそめさせた。それらが死体の上に芽吹く命だということを自分が忘れられると気づいたのはつい二時間ばかり前、柳の木の下でのことだった。

 逢瀬のことを思うとクローディアの胸は甘く疼いた。彼女は青年の名前すら知らなかったし、いつ尋ねればいいかもわからなかった。男は彼女の耳から真珠のピアスをそっと抜き取り、クローディアは返してくれと言わなかった。シャワーを浴びた後も、夕食の時も、眠りにつくまでクローディアは彼のことを考えていた。

 翌日は日曜日だった。昼食を食べ終えた後、家族全員はリビングのテレビで特に面白くもない映画をなんとなく見続けていた。エンドロールが流れている時にチャイムが鳴った。クローディアはドアを開けに行った。

 あの青年が立っていた。

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