第101話 二つの戦い
「——見つけた」
間違いない。館の一番奥にある一階の左側、その部屋のなかに二つの魔力反応があった。
一つは微量な反応だ。一般人とみるのが正しいだろう。ローズの話を聞くかぎり彼女の父親である可能性は高い。
そしてもう一人の魔力反応。
これはとんでもない量だ。僕がこれまで出会ってきたどの魔術師よりも膨大な魔力を有してる。まず間違いなく魔族だろう。
「魔族は館の一階、左奥の部屋にいる。近くにもう一人一般人がいるみたいだけどローズのお父さんかな? 他にもちらほら魔力を感じるけど……ローズが言ったように固まってる魔力反応は二階の右奥にある部屋だ。可能性が高いとしたらそこにローズの家族がいると思う」
すぐにローズ達へ情報を伝える。
時間はどんどん差し迫ってくる。僕は「また後でね」とアリシア達に伝えて館の方へ走った。
館では何やら魔族が騎士たちへ情報を伝えたのか、周りを囲む騎士たちがざわざわと騒いでいた。
雰囲気から察するにピリピリしてるっぽい。
殺気を隠そうともしない。
だが僕はそんな彼らを無視して強化された脚力で館の前を通る。
騎士たちは僕の姿に気付くが、誰も反応できない。素早く館の中へ入った。
しかし、
「……ん? 予想通り魔族がすごい速度で移動し始めたな。他を置いて逃げたのか」
魔力探知の魔法で常時魔族の反応、位置を確認していた僕は館から離れていく魔族を捕捉していた。
向こうも僕が探知魔法を使っていることには気づいているだろうが、それでも逃亡を選んだということは……。
「正面切っての戦闘は苦手か」
館の壁をぶち抜いて最短距離を直線に移動する。
相手は飛行できる魔法でも使ってるのか明らかに走ってる僕より速い。このままだとすぐに離されて見失ってしまう。
僕が使える探知魔法の探知範囲ならそうそう見失うことはないが、そもそも相手に追い付けないと補足できていても意味がない。
このまま魔族を追い返して終わりというのも悪くないが、魔族を放置したまま街へ帰るのはなんか不安になる。
たとえるなら気持ち悪い虫が出て逃げられたから放置すると気になって夜も眠れない——的な。
なので僕も同じく風の魔法を使って飛行した。
魔力にものをいわせて凄まじい速度で空を飛ぶ。
すると、強化された僕の視力が遠くを飛ぶ魔族らしき姿を捉えた。
「おっ。いたいた」
魔族も探知魔法を使ってるので僕が近づいてきたのに気づいてる。
後ろを向いた魔族はぎょっと目を見開いて慌てた。
だがどうしようもない。徐々に僕と魔族との距離は縮まっていく。
ちょうどよく街からかなり離れることができたので、これで憂いなく相手をぶちのめすことができるだろう。やりすぎないように注意しながら僕はどんどん魔力を練りあげていった。
▼
場所は変わって領主の館。
ノアが魔族の妨害系魔法を壊し、逃げた魔族を追いかけたあと残されたローズ達はひっそりと領主の館へ侵入していた。
方法は単純だ。事前にノアに聞いていた場所へ向かうため領主の館をローズが霧の魔法を使って覆った。
騎士たちは何度も見た霧の魔法を見てやはりいつも通りに動きを止める。
加えてローズにはノアほどでないしろ探知魔法の心得があった。さらに領主の娘たるローズには家の内部情報が目を瞑っていてもわかる。
アリシア達を引き連れて二階の奥、右側にある部屋を目指していた。
外にいた騎士たちは館の内部には入ってこない。恐らく魔族か領主に内部への入室を拒否されているからだと思う。
今回の場合はそれがローズ達の味方をしてる。
現在、館の内部には魔族がいない。魔族がいなければローズ達の生涯になる相手はいない。当然、何人かくらいは騎士が配置されているとは思うが、今のところ彼女たちの道を塞ぐ者はいなかった。順調に階段を上って二階へ辿り着く。
すると、霧の中から何者かの気配を感じる。
やや不安になった一行だがそれでも家族を救いたいローズは道を進み、目当ての部屋の前に着いたが……扉の前には虚ろな目をした二人の騎士がいた。
騎士は近づいてくるローズ達を視界に捉えて武器を構える。
「やっぱり何人か騎士を配置してましたわね。けど、わざわざ扉の前に騎士を立たせるということは……ノアさんの情報は正しかったということですか」
ニヤリと笑ってローズは魔力を練りあげる。しかし、そんなローズを隣に並ぶアリシアが制止した。
「あの騎士たちの相手はわたし達がするわ。あなたは既に魔法を使ってるんだからこれ以上は何もしなくていい。早く家族と会ってあげなさい」
「アリシアさん……」
アリシアが前に出る。
自分の役目を見つけた彼女は魔力を練りあげ、後ろに並ぶシャロン達に目を向けた。
シャロンとミュリエルがこくりと頷く。
こうして彼女たちの戦いもまた始まるのだった。
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