第100話 作戦スタート

 朝食を食べてローズの家を出る。


 全員準備は万端だ。

 僕を先頭に領主の館を目指す。


「作戦は昨日伝えた通り、まず僕が館の周辺に張り巡らされてる妨害系の魔法に魔力を込めて干渉するから、魔法が壊れたらすぐに探知魔法。保有する魔力の高さから魔族の位置はすぐにわかるけど、流石に一般人のローズの家族の詳細までは把握できないと思う。それでもある程度の位置は伝えるから、聞いたらローズ達はそこへ真っ直ぐに向かってくれ。僕は魔族の下へ急行する」

「了解しました。領主の館には使用人とわたくしの家族くらいしかいません。恐らく固まってる集団がいたらそれが家族と思われます。キッチンの位置は事前に伝えましたからそこを除いた場所にいる複数人の魔力反応を教えてください」

「ああ。もしかすると館の内部にも魔族を守る護衛がいる可能性はいる。万が一のことも考えて魔力量の多い敵がいたらそれも含めて教えるよ。ただ僕の魔力探知はあくまで周辺の魔力量を探知する魔法だ。相手が武器を使う剣士だったりしたら力量などはわからない。絶対にみんな油断しないようにね」

「耳にタコができるほど聞いたわよそれ。言われなくてもわかってる。あくまでローズやわたし達の目的は家族の救出。避けられる戦闘は避けて進むわ」

「場合によってはわたしが皆さんを守ります! お任せください!」


 シャロンがやたらやる気を見せるが僕が言いたいのはそういうことじゃない。


 真面目な彼女にこそ釘を刺しておこう。


「シャロン……僕が言いたいのは全員無事で作戦を終えることだよ。一人でも欠けてたら許さない。君が守るのは仲間の命だけじゃない。自分の命もちゃんと守らないとダメだよ」

「ノア様……わかりました! 絶対に無理はしません。危険だと思ったら何より退却を優先します!」

「よろしい。ローズも自分の命を優先してくれよ? 家族を救いたい気持ちはよくわかるが、君自身が死んだら元も子もない。それはわかるだろう?」

「ええ。犠牲も覚悟の上と言った以上、仲間には迷惑をかけません。いざとなったらどのような手を使ってでも逃げ延びてみせますわ」

「そっか。信じてるよ」


 彼女の言葉に嘘偽りはないだろう。


 だが、いざ家族を目の前にした彼女がどんな判断を下すか……その時になってみないとわからない。


 仮に自分の命を捨ててでも家族を助けようとすれば僕にそれを止める権利はない。


 その結果仲間の命が危険に晒されるなら許さないが、そうでもないなら後は彼女の自由だ。


 釘は刺したが強制はしない。


 僕らの目的はあくまで魔族の討伐だ。人質の救出は完全にローズに一任した。


 余計な思考は頭の隅に置いて、僕たちは領主の館近くへ急いだ。




 ▼




 しばらく歩くと領主の館に到着する。


 今回も僕たちはメイクをしてる。おかげで道中出会った騎士たちに声をかけられることなく此処まで接近できた。


 しかしこれ以上館に近づくと、館を覆うように展開された探知系の魔法に引っ掛かる。


 どうせ相手にバレるなら魔法を破壊してからバレたい。余計な手間と時間をかけずに僕らは作戦を開始した。


「じゃあいくよ? 準備はいいかい?」


 最後に振り返って全員の顔を見る。

 アリシアを筆頭に全員がゆっくり頷いた。


 それを見届けて僕は魔力を練りあげる。


 魔法とは魔力をイメージに近い形へ変換したものだ。炎なら魔力を熱へ。水なら魔力を液体へ。


 属性系統の魔法とは、言ってしまえば魔力を変換したものに過ぎない。


 現象こそただの物質の具現化だが、構成するのは魔力の塊。


 つまり魔力を変換せずに周囲へ放てば、それそのものが一種の魔法となる。


 まあそんな状態の魔力を使って攻撃をしようものなら非常に効率が悪く大量の魔力を消費するだけなのでほぼほぼ無意味だが、僕の場合は話が異なる。


 決して尽きぬ無限の魔力を持つ僕なら、どんな方法であろうと驚異的な結果を生み出す。


 今回も練りあげた魔力をそのまま周囲へ放出・拡散する。


 激流のごとき奔流が広範囲に向かって飛んでいった。


 仮に物体へ当たっても攻撃の範囲を拡張をした分威力は皆無に近い。


 皆無に近いが、同じ魔力同士がぶつかるとなると話は異なる。


 同じ広範囲を覆うタイプの魔法は、その性質上よっぽど魔力を込めていないかぎり耐久力で他の魔法に劣る。


 結果、拡散した魔力は大した威力をもたないにも関わらず、同じく大した耐久力をもたない妨害魔法を——一気に押し潰して破壊した。


 魔力を探知できないものにとっては不可視に近い衝撃が魔法を壊し、それに気付ける者は構築した魔術師以外にはいない。


 作戦スタートだ。

 僕は全員に告げる。


「魔法は壊した。探知魔法を使う」


 そして発動した探知魔法。


 館の一角に、明らかに常人を超越した圧倒的な魔力を持つ者の反応があった。






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一読ありがとうございます!

先日、新作を投稿しましたので、

そちらの方も読んでいただけると幸いです!

こちらと同じゲーム世界への転生ものです。

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