第99話 作戦決行、当日

 魔族との決戦の日がきた。


 二日後、僕たちはローズの家のリビングに集まっていた。


 時間は早朝。


 全員が魔族との戦いに備えて早起きしていた。恐らく僕以外の者は強大な力を持つ魔族との戦いに緊張しているのだろう。


 ローズが用意してくれた紅茶を飲みながら、珍しく会話がない。


 結局のところ、あれ以降僕らが考えた作戦は何もなかった。


 正面から魔族が発動した魔法を壊し、その上で魔族と僕が戦う。


 その間にローズ達がローズの家族を探して保護。時間がかかるようならローズ達が僕のサポートに来るという手はずだ。


 もしくは邪魔になりそうな騎士やハンターの排除を彼女たちに頼んだ。


 僕は可能な限り魔族を街から離して戦わなくてはならない。


 街中で僕と魔族が争えば、倒すのに必要な魔力量からして街の一角が確実に更地と化すためだ。


 魔族を倒せるならその程度の犠牲仕方ないと思えるが、魔族がいる場所が悪かった。


 領主の館は他の住民たちの家からは離れているが、何より領主の館にはローズの家族たちがいる。


 そんな所で戦えば間違いなく犠牲者が生まれるし、場合によってはアリシア達を巻き込む可能性もある。なので僕は相手の妨害魔法を壊したあとすぐに探知魔法で魔族の位置を特定し、相手が逃げるようなら追いかけ、逃げないようなら街から離して戦わなきゃいけない。


 これが一番厄介な仕事だ。


 ただ単純に倒すよりめんどくさい。


 なんせ魔族を街から離すには、少なくとも街中で魔法を使わなきゃいけない。


 街の被害を考えて魔力を調整し、常時探知魔法で周囲の状況を確認し、その上で相手の動きを読みながら攻撃を防ぎつつ特定の場所まで敵を誘導せねばならない。


 あーめんどくさい。


 考えただけでめんどくさい。


 けどそれが最も被害が少なくて済む。


 自分一人が頑張れば誰もが幸せになれるのなら、それくらいやってみせようじゃないか。


 何のために僕はこれまで魔力操作の練習を頑張ったと思ってる。


 きっとこういう日のためだろう。


 紅茶を一気に飲み干して覚悟を決めた。


「よし! みんな朝食を食べたら早速準備に取り掛かろう。覚悟はいいかい?」


 立ち上がってキッチンへ行く前に彼女たちへ声をかける。全員がびくりと肩を震わせて僕のことを見た。


「え、ええ……やる気はあるわ。全力で頑張る。けど本当に魔族とぶつかることになると思うと、戦うのはノア様なのに妙に緊張して……」

「わ、わたしもです……魔族なんて初めて見ますから。これまで戦ってきた魔物とは一線を画す強さ……緊張します!」

「コクコク!」


 アリシアは微妙な顔を浮かべ。


 シャロンは神妙な顔を浮かべ。


 ミュリエルは不安そうな顔で頷いた。


 僕も今世では魔族と戦うのは初めてだ。前世の記憶がある分、彼女たちほど緊張していないが、それでも気持ちはよく理解できた。


 「あはは」と苦笑してからローズを見る。


「ローズはどう? 問題なさそう?」

「わかりませんわ。わたくしの仕事は自分の家族を救出することですから。作戦の成功はノアさんにかかっています。なのでこちらの心配はいりません。最悪、魔族さえ倒せれば多少の犠牲は考慮の上です」

「それは……自分の家族を見捨てるということ?」

「はい。この街の領主の娘として、悪を討つために犠牲が出るのは承知の上です。どうかノアさんは遠慮しないで戦ってください」

「……ああ、そうするよ。けどそれが家族を見捨てる理由にはならないだろ?」

「え?」

「僕は頑張る。全力で魔族を倒す。だからローズも全力で家族を守れ。これはこれから頑張る僕からの命令だ。協力する以上は聞いてくれると嬉しいな」

「ノアさん……」

「家族は大切にね」


 それだけ言って僕はキッチンの方へ向かった。


 やれやれ。


 彼女の覚悟を聞いただけだったのに、これじゃあどう考えても魔族を倒すしか道はなくなったな。


 逃がすことすらできそうにない。


 加えて街に無駄な被害を出すのもダメだ。


 よりいっそう気を引き締めて、僕は全員分の朝食を作りはじめた。

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