第97話 これだけは譲れない
「あ、アリシアたち見っけ」
場所は変わって街の南通り。
歓楽街に位置する道で僕はアリシア達を見つけた。
結局のところあのあと一時間ほど領主の館を見張ったが、残念ながら特にめぼしい変化はなかった。
なので退屈すぎて場所を移して街中を歩いていると、メイクし別人のようになったアリシア達を見つけたということだ。
手を振って声をかけると向こうも僕の存在に気付く。
「ノア様! 領主の館の方はもういいんですか?」
犬のように真っ先にシャロンが僕のもとへ走ってきた。
可愛らしい彼女の頭を撫でてあげる。
「うん。ローズの話どおり領主の館にいるであろう魔族は生粋の引き籠もりだね。二、三時間は粘ったのにまったく変化がなかったよ……」
「ノア様のほうは空振りですか……こちらも街にいる騎士を探してはいるんですが、昨日の件であまり見かけませんね」
「え? そうなの? むしろ僕たちを逃がしたんだから血眼になって探してると思ったのに」
「ローズさんの推測によると、我々を警戒して領主の館の方に兵を配置してるのではないかって」
「ふーん。だから館の前にあれだけの騎士がいたのか……」
そう言えばと思い出す。
僕が観察していた館の周辺には、隙間すら許さないほど多くの騎士が柵を囲っていた。
そこまでするかね普通、と思っていたが僕らを警戒して館の防衛を強化したのなら理由はわかる。
だとしたら館にいる魔族の性格は……ガチガチのビビリか慎重派ということになる。
予想通りといえば予想通りだが、少々面倒だな。
その手のタイプの人間はあらゆる不安を消し去る準備をしておくものだ。
たとえば僕らが正面から館に殴り込みをかけた際、用意してあった隠し通路から逃げるとか人質をとるとか。
逆に狙いを定めて遠距離からの魔法狙撃をすれば、遠距離攻撃を警戒した防御魔法が発動し防がれる的な。まあ遠距離魔法狙撃は絶対にできないけどね。
魔族の魔力防御を突破するほどの威力になると、館ごと吹き飛ばさないといけなくなる。その上、威力を下げたところで探知阻害の魔法があるせいで下手するとローズの家族や一般人を殺してしまう可能性がある。
ますます魔族の相手が嫌になってきた。
「あら、お疲れ様ですわノアさん。館の方はどうでしたか?」
シャロンに続いてローズやアリシア達も僕の方に合流する。
「ローズ達もお疲れ様。残念ながら何の情報も集められなかったよ。警備が厳しいねぇ。しかも魔族は引き籠もってるし」
「でしょう? やはり正面突破からの即時鎮圧が最も楽な方法ですわ」
「そうだねぇ……ここまでガチガチに自分の身を守ってるとなると僕もその考えが正しいと思うよ。相手が魔族だけなら無理やりゴリ押して倒せるんだけど、今回は一般人があまりにも多すぎる。被害を最小限に抑えるには、こちらの手の内をある程度相手に晒す必要があるね」
魔族が僕たちのことをそれで脅威だと認定してくれればきっと慎重派な魔族は逃げるだろう。
場所さえ街から離れてくれればあとはどうとでもなる。
周辺の地形は崩壊するだろうが、地図の書き換えくらいで済むなら安いものだ。
「でしたら役割を分けましょう。ノアさんには魔族の相手を。わたくしは家族の保護を。アリシアさん達にはノアさんのお手伝いが無難でしょうか?」
「うーん……魔族は強いからね。正直な話、今のアリシア達が魔族と戦えば三十分ももたないだろうね。館のどこにローズの家族がいるかわからない以上、家族の保護人員を増やした方がいいと思う」
「ではノアさん一人で魔族の相手を? いくら優秀とはいえ一人で魔族を相手にするなんて……」
「そうよ。なんのために仲間がいると思ってるの? わたし達にも協力させて。戦力は多い方がいいと思うの」
ローズの不安にアリシア達が乗っかる。
だが僕の考えは変わらない。
「ダメだ。今回、魔族に挑むのは僕だけ。ハッキリ言うよ? アリシア達は足手纏いだ。邪魔になる」
「ッ——!」
まだ魔族の相手はアリシア達に早い。
今回はたまたま魔族がいたから戦うしかないが、仮にローズがいなかったら絶対に僕は逃げてる自信がある。
それくらい一般人と魔族の間には隔絶した才能の差がある。
「むう……珍しくノア様が強情ね。そんなに危険なの?」
「僕一人なら余裕だけど、アリシア達がいるとね。だから受け入れてくれ。無理ならこの話は終了だ。ローズとその家族を見捨てて君たちを無理やり街の外へ移す」
ハッキリと拒否の姿勢を見せて僕は彼女たちを睨んだ。
一歩も引かないと言動で示す。
それを見て彼女たちはようやく諦めた。
「……わかったわ。今回、わたし達はローズのサポートに徹する。二人ともそれでいいわよね?」
「はい。わたしは元からノア様の意見に従う予定だったので」
「わたしも、平気、です」
「よろしい。なら、近日中には魔族の討伐ならびにローズの家族救出を行う。それでいいよね、ローズ」
僕が満足気にローズを見ると、彼女は少しだけ考えてコクリと頷いた。
こうして突発的に僕らの作戦は決まるのだった。
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