第96話 引き籠りガチ勢
メイクを終えて僕とアリシア達は同時にローズの家を出た。
家を出てからはすぐに別れる。
僕は領主の館へ。アリシア達は騎士やハンター達の調査に乗り出した。
ローズの話によると領主の館は前の街と同じで北側の通りにあるらしい。
王都なら王城がある場所に巨大な建築物が見えた。
王城ほどではないにしろ周りの建物より大きいからすぐにわかった。あれが領主と魔族が住む領主の館なのだろう。
僕は遠巻きに領主の館を眺めながら移動する。
目指す場所は領主の館が見える高い位置。
強化系の魔法を使えば多少離れていようと遠くを見渡すことができるからだ。
ゆえに僕はなるべく限界ギリギリの距離まで離れた上で領主の館を見張ることにした。
昨日のローズと同じく建物の上へ飛び乗ってクリミアの外壁を目指す。
領主の館が通りの一番奥にあってよかった。
おかげである程度外壁から近い。
僕の魔力操作でも十分にバレない距離から館を見下ろすことができるだろう。
他の人間の視線を気にしながら民家の屋根を飛び回り外壁の頂上へと到達。
吹きすさぶ風を浴びながら魔法を発動した。
「さあて……領主の館の様子はどうかな」
僕の視界に館の周りが映し出される。
柵に囲まれた領主の館には多くの騎士が大挙していた。
剣に槍、強固な鎧を身に纏った彼らは剣呑な眼差しで周囲を見渡す。
ずいぶんとたくさんの人員を割いてるな。
よほど領主の館に他人を招きたくないらしい。
そこまでして何を隠そうとしてるのか、はたまたよっぽど人目が苦手な魔族でもいるのか。
魔力探知の応用ですぐに館の周りに魔法が発動してる痕跡も確認した。
ローズの言う通り部外者の立ち入りを把握するための魔法がかかっている。
他にもアラームを鳴らす魔法が。
範囲は領主の館をすっぽり覆う程度に納めているが、それゆえに隙はない。
どこから侵入しようと確実にバレるな。
仮に地面から侵入しようと無駄だ。
魔法は円形に結界を張り巡らせることもできるのだから。
「外には騎士以外の姿は見えず……全ての窓にはカーテンがかかっているのか。いやいや慎重すぎるでしょ」
なるほどこれではローズが何も情報を持ち帰れないわけだ。
探知魔法でも結界に阻まれて内部の確認はできないし、無理やり結界を突破しようとすると結界が壊れて何かしたのか相手にバレる。
かと言って物理的に視界を外されると内部の情報を取ることはできない……。
うーん手詰まりだ。
ローズが言ったように強硬策くらいしか思い浮かばない。
だが強硬策を決行するとローズの家族やアリシア達が危険に晒される可能性がある。
ローズの家族は最悪放置してもいいがアリシア達に何かあったら困るしね。
もう少しだけ領主の館を観察してからアリシア達の下へ戻ろう。
その後も僕はうんうんと様々な案を脳裏に浮かべ続けるのだった。
▼
場所は変わってクリミアの街の一角。
そこでは四人もの女性——アリシア達が普段は着ない装いを身に纏って立っていた。
彼女たちの手には串に刺さった肉がありそれを食べながら話す。
「うーん……ノア様の方が遙かに美味しい物を作れるとはいえ、洗脳された状態で普通に料理ができるとは……洗脳魔法とは意外に便利ですね」
串焼きを食べながらアリシアが感想をもらす。
彼女の口に入った肉は、近くで屋台を開く男のものだ。
このクリミアの街近くに生息する豚のようなイノシシのような魔物から取れる肉を焼いたもので、シンプルゆえに平凡な味が好まれる。
最近は特にノアの料理を嗜むようになったアリシア達からすれば貧相な料理でしかないわけだが、それでも普通に食べて美味しいと言えるレベルのものだ。
それを魔族の洗脳を受けた者たちが作ってると思うと色んな意味で衝撃を受ける。
「ノアさんの話によると洗脳魔法は耐性さえなければ強力ですが、制約も多くこういった条件下でしか役に立たないとかなんとか。まさに魔族が使う魔法らしい特性ですね」
同じく串焼きを食べながらローズがアリシアの言葉に返事を返す。
「たしか洗脳魔法は戦闘にはあまり使えない魔法、でしたよね」
「ええ。魔術師が使う魔力障壁に阻まれますし、洗脳した人間は意識の低下のせいで素早くは動けません。日常生活や料理、会話くらいならまだしも忙しなく動く戦闘には向きませんね」
「はあ~、相変わらずノア様は博識ですよねえ。わたし洗脳魔法の知識なんて知りませんでした」
「わたくしもですわ。細かい説明を聞いて物凄くタメになりましたもの」
「流石はノア様ってところね」
アリシアが適当に話しをまとめる。
流石は勇者の仲間だっただけはある、とは言わない。
この場にはローズがいるしアリシア自身が勇者を好まない。
ノアこそが勇者を支えていたと勝手に思ってるくらいだ。
串焼きを食べ終えて全員が再び歩き出す。
「次は何処へ行きます? 通りを歩いていれば騎士たちに出会えると思いましたが、今日はあまり見ませんね」
「多分、大部分が領主の館の方へ向かったのでしょう。不審者を見つけた翌日ですから」
「あー、なるほど」
ローズの言葉に全員が納得する。
騎士たちと戦った翌日だ。自分たちの意にそぐわぬ者がいるならその報告と念の為の防衛は必要になる。
だから人の多い通りにあまり騎士を見かけなかったのかという結論に行き付いた。
どうやら彼女たちの調査もまた時間がかかるらしい。
やれやれと全員が肩を竦めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます