第94話 やっぱり肉か
メイクを落として数時間後。
僕のピエロの件は置いといて
次々と仲間たちが美しくなっていく中、僕は彼女たちの話に混ざらずただひたすらお茶を飲み窓辺から外を眺めた。
ちゃんと探知魔法を使いながら警戒はしていたが、先ほどと違ってこの辺りは平和そのもの。
窮屈かつ退屈な時間を必死に耐え忍んだ。
結果、気がつけば外は紺色に染まり薄暗くなってきた。
そろそろ夕食の時間かなと思ってると同じことを考えたのか、化粧道具をテーブルに置いたローズが言う。
「皆さん、長々とメイクお疲れ様でした。お腹が鳴るまえに夕食にしましょう。わたくしがお手製のものを振る舞いますよ」
「へえ、ローズは貴族なのに料理が作れるんだ。それもここへ来たときから練習を?」
「ええ。ここにはわたくししかいませんから。ご飯を用意してくれるメイドがいない以上、四苦八苦しながら頑張りました」
「僕も料理は作れるから手伝うよ」
「そうなんですの? それは助かります! これだけの数になると一人では大変ですから、是非」
「了解。アリシア達は疲れただろう? ここは僕に任せてソファーで休んでいてくれ」
そう言って僕はソファから立ちあがる。
袖をまくりやる気を見せた。
▼
ローズの許可を貰ってキッチンに立つ。
ローズの購入した家には
しかし不思議なことにキッチンはほとんど手をつけられた痕跡がない。
端的にいってすごくキレイだった。
違和感を覚えるくらいには。
「もしかしてローズってあんまり料理しない人?」
きゃあきゃあ騒いでるアリシア達から離れてキッチンへやってきた僕とローズ。
僕が料理を作るの手伝うよと言ったとき、あからさまに嬉しそうにしてたが……その理由がわかった気がする。
けど君、たしか料理を普段から作ってる風のこと言ってたよね?
まさかとは思うが見栄を張った?
それともただのキレイ好きで片付けガチ勢なのか。
僕としては経験者であることをただただ祈る。
が、
「……実は経験はありますが得意というほどじゃ……」
とローズは自白した。
ですよねぇと僕は納得する。
アリシアもそうだったが貴族の令嬢は料理など作らない。
ローズが先ほど言ったように貴族の令嬢にはメイドが付いてるからね。
もしくは家に専属の料理人がいて彼らが自分たちの料理を作る。
ゆえに経験という部分でどうしても一般人に劣ってしまうのだ。
とはいえやや期待した分、落胆したのは事実。
ちゃんと最初から言ってくれればよかったのに。
バレる嘘をついちゃいかんよローズさん。
「じゃあ僕がメインで料理を作るからローズにはその手伝いを頼んでもいいかな?」
「わかりました。微力ながら頑張らせていただきますわ! お手伝いくらいなら問題ありませんし!」
ふんす! とやる気に満ちあふれたローズ。
アリシア達もそうだったが何がそんなに楽しいのか。
ローズは袖をめくって料理への意気込みを見せる。
僕は普段から料理をしていたからそう思うだけで、逆に経験がない人の方が料理をするのは楽しいのだろうか?
思いかえしてみれば勇者のパーティーに所属していた頃はよく外で自炊したものだ。
時間のかかる遠出をした際なんかはすぐに近くの街や村へは帰れなかったからね。
貴族の令息令嬢のエリック達を満足させるのはすごく大変だった。
文句は多いし何も手伝ってくれないし本当にもう。
ただあのめんどくさい代表のエリック達でさえ僕の料理の腕はある程度認めてくれていた。
不満そうな顔で「料理くらいはまともなものが作れるようだな」と言ったのを今でも忘れていない。
死を避けるためにパーティーから出ていったが、せめてもの謝礼代わりだった。
ガチで注文と文句が多すぎてぶっ飛ばそうかと思ったこともあるけど。
「ではまず何から作りましょう。メインになる肉料理でしょうか」
「そうだね。今日の献立は……」
ローズが当たり前のように言った言葉を聞いて僕は驚きもしない。
ただごく自然に彼女もまた肉料理が好きなのかと思った。
前世の記憶がある分女性はカロリーが低いものを好む存在だと考えてしまうのは僕の勝手な価値観に過ぎない。
前世の日本でも肉料理が大好きな女子はたくさんいたし僕の知り合いもそうだった。
それに肉はただ焼くだけでも美味い。
気持ちはよくわかるというものだ。
そのため僕は彼女たち全員が喜ぶ肉料理を作ろうと決め、じっくり今夜の献立を考える。
……あ、ローズにはまだ振る舞ってないけどマヨネーズとか使うのも悪くないね。
初日の料理の印象は大事だ。
できる限り頑張って美味しいものを振る舞うとしよう。
何も言ってないのに肉を用意しはじめるローズを見ながら、僕は当たり障りのないメニューを考えはじめるのだった。
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