第91話 僕もメイクするの?
「さあ、皆さんどうぞ。お好きなものを手に取ってください。化粧道具なども一通りそろってますので、気合を入れていきましょう!」
何故か妙にやる気を見せるローズ。
白から赤、青といった様々な髪色のカツラを並べては、同時に化粧道具がテーブルを埋め尽くしていく。
僕はよく知らないが、こういったものがこの街では流行ってるのだろうか?
ゲーム時代にはなかった物ばかりで困惑する。
「よくもまあこれだけ買い揃えたものね……でも、化粧をするのは久しぶりだわ」
「たくさんありますねえ! ちょっとだけワクワクします」
「……えっと、わたしも、変装、すべきですよね?」
ローズが並べたカツラと化粧道具に、我がパーティーの女性陣は姦しくなる。
普段は物騒な話と女子トーク、スイーツばかりに興味を示す彼女たちが、珍しく別のことではしゃいでいた。
どの世界の女性も、ある程度はこういうのに興味が尽きないのだろうか。
まったく興味が持てない僕はただ黙って彼女たちの様子を見守った。
「当たり前でしょ。ミュリエルは元がいいんだから、メイクでもして可愛くなりましょう?」
「大人しいミュリエルにはこの髪色が似合うと思いますよ。あと、やっぱりこれかな?」
「そういうシャロンにはこれね」
「赤ですか? ちょっと派手じゃないですか?」
「そんなことないわ。シャロンには明るい色が似合うもの」
「そ、そうですかね……えへへ! じゃあ、アリシアさんにはこれを!」
「黒……?」
「美しい大人の色! アリシアさんにはそういうイメージがあります」
「へえ。ありがとう。ちょっと付けてみようかしら」
ワイワイガヤガヤ。
みんなの雰囲気に当てられて、もはや僕は紅茶を飲むくらいしかすることがなかった。
何か一つでも口を出そうものなら、一気に標的にされそうだからね。
すると、それを見かねたローズが僕の隣へ移動し、ひそひそと声を抑えて喋りだす。
「本当に皆さん仲良しですね。この街のハンターもこれくらい穏やかならよかったんですが」
「仲良しすぎて僕の入る隙間がないけどねえ……。そういえば、この街のハンター、女性が随分と少ないように見えたけど、何か理由でもあるの?」
ふと話題に上がったハンターに関して、僕は気になったことを訊ねる。
偶然だったかもしれないが、職員まで男性となると何かしらの意図を感じる。
「あー……それは、恐らく魔族と父の影響かと。余所からくるハンター対策でしょうね。襲われたノアさん達ならわかると思いますが、クリミアのハンターも騎士たちとグルのいわば犯罪者集団です。洗脳したハンター以外は基本的に性格や素行の悪い者ばかりが残され、必然的に……ね」
「なるほど。欲望だらけの目を向けてくるとはアリシア達が言ってたが、まさにその通りだったと」
「はい。なのでハンターのノアさん達からしたら不服とは思いますが、しばらくハンター協会に寄るのは避けた方がよろしいかと。ノアさん一人ならともかく、皆さんを連れていくとまた騒動に発展しますよ」
「だね。お金の心配があるけど、そこら辺はどうにかしてくれるんだろう?」
泊まる場所、食事代もろもろなど期待してるよ、という目で僕は笑った。
ローズはやや引き攣った顔で「当然です」と断言してくれる。
「……ん? ちょっと二人とも、なにコソコソ話してるのよ。ノア様たちも話に入ってきなさい。ノア様だって変装しなくちゃいけないんだから」
「え? 僕も? 僕は適当に金髪のカツラでも被るからそれでいいんじゃない? ほら、元が黒っぽい色だし、金色のカツラを被れば目立たないでしょ」
女性陣と違って僕はただカツラを被ってローブを深く被る予定だった。
だから適当でいいよと言ったが、
「ダメに決まってるでしょ。せっかくの機会なんだし、ノア様もメイクよメイク」
「……男がメイクって変じゃない?」
ちなみにこの世界にはメイク道具がたくさんあって、男性もメイクをするらしい。
前世でもそういうメンズアイテム的なものはあったが、なぜそんなものがこの世界にあるのか謎である。
ゲームを作った連中、遊び心で変な設定を加えないでほしい。
ちなみに僕は黒っぽい青色の髪をしてるが、普通に黒髪はこの辺りに住んでる人にもいる。
よくある東方の地域で見かける珍しい髪色ではなかったりするらしい。
「いつの話よ。今時男でもメイクはするのよ。ちょっと道具は女性用だけど、平気平気。なんとかなるわ。元がいいんだから任せてちょうだい」
そう言ってアリシア達の魔の手が僕の下に迫る。
僕は必死になって彼女たちの提案を拒否したが、残念。
完全にやる気を見せた女性三人の意見を跳ねのけられるほど、僕の意見は強くなかった……。
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