第90話 変装しよう

「案、ね」


 話しを振られてアリシア達も一緒になって考える。


 時間はすでにこの家へやってきて一時間以上が経った。

 彼女たちもある程度は魔族に関して詳しくなっただろう。


 魔族の詳細に関しては、ローズ以上に僕の方が詳しい。

 だから適当に魔族の情報は全員に教えてあげた。


 すると、それを聞いたアリシア達にヤバイ質問をされる。


「どうして魔族にそんなに詳しいの?」


 とね。

 それを言われて焦ったよ。


 流石に前世の知識があるからだよ、とは言えず、数秒ほど全身が硬直したが、すぐに自分が誰の仲間だったかを思い出して嘘をつく。


 こんな時に便利だよね勇者っていう存在は。


 僕を切り捨てたくせにいつまでも粘着質で鬱陶しいと思ったが、今後は勇者経由で様々な情報を彼女たちに何の違和感も持たせずに説明できそうだ。


 自分のせいとはいえごめんね勇者たちよ。

 お前らクソうぜえ、とか思ってて。


 ……話しは戻して、現在。

 紅茶を飲みながらたくさんの案を出していく。


 ローズは使う魔法こそ繊細なものが多いくせに、思考は脳筋なのか大胆な案が多い。

 逆に僕は慎重すぎるくらいの案が多く、なかなかこれといったものが決まらない。


 当然、作戦が決まったからとすぐに決行するわけではないが、メインとなる計画が決まらないのもまた困る展開だった。


 練習とか打ち合わせとかもっと詳しい話ができないし、ひたすら憶測ばかりが飛び交うのでは時間の無駄だ。


 もしかすると明日にでも魔族は更なる恐怖でこの街を支配する可能性はあるのだから。


「今まで特に考えてこなかったせいで、ぜんぜん良案が思い浮かばないわ」


 やれやれとアリシアが肩をすくめ、紅茶を飲みながらどうしたものかと頭をひねる。


 シャロンにいたってはもはや考えることすら大変なのか、うんうんと瞼を閉じてはすごく苦々しい表情を浮かべていた。


「今のところ、取り合えず情報集めと正面突破以上の案は出ないね。こんなものかな?」


 シーンとする空気を見かねて、僕が早々に結論を出してしまう。


 全員が微妙な表情を浮かべるが、反論は特に出てこなかった。


「……けど、どうするの? 情報を集めるにしたって、もうわたし達の顔は騎士に割れたわよ? ローズと同じように仮面でも付けて出てかけるの?」


 しかし、それとこれとは別にアリシアが重要な質問を投げた。


 僕とシャロン、アリシアとミュリエルの視線が、テーブルに置いてあるローズの仮面に吸い寄せられた。


 彼女が付けていた仮面は、前世で僕がよく知る道化師のようなものじゃない。


 怒ってるようにも悩んでるようにも見える、謎の人の顔模様が描かれていた。


 何故か全体の色も紺色だし、どこからどう見てもやっぱり怪しい。


「う、うーん……僕らがこれを、ローズと同じ格好をするのはちょっとねえ」


 一度視線を外して、僕が苦笑する。

 隣に座るシャロン達は「ですよね~」って顔で一斉にため息を吐いた。


 たしかに外で諜報活動をするなら、騎士に顔がバレた僕らもまた変装した方がいいに決まってる。


 だが、ローズの格好は些か変に過ぎる。

 僕ら四人が全員同じ仮面を付けてうろついてみろ。

 情報を集める前に別の理由で騎士が飛んでくる。


 せめて騎士を呼ばれない程度の変装をするべきだと僕は思った。


「もっとこう、髪色を変えるなりフードを被るなり髪型を変えてみるのはどうかな?」

「カツラですね。そういったものも準備してありますよ」

「え? あるの?」


 僕がそれっぽいのない? と訊ねようとする前に、ローズが自信満々に胸を張った。


 彼女は歳の割にはかなりデカイ。

 何がとは言わないがメチャクチャ揺れた。


 ……あと、カツラがあるならわざわざ彼女が仮面を付ける必要はなかったのでは?


 領主の娘とはそれほどよく知られているのだろうか?

 僕は深くは考えないことにした。


「ええ。この日のために協力者用の変装道具くらいは集めておきました。基本的にこういったものは、演劇などで使われるため、街の通りに売り出されてる場合がありますので」


 そう言ってローズはソファーから立ち上がると、奥にある扉を開けてどこかへ行ってしまった。

 恐らく自室かな。


 しばらくすると大荷物を両手に抱えて帰ってくる。

 色とりどりのカツラがそこにはあった。

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