第88話 話し合い
「では改めて……ご協力、よろしくお願いしますわ」
正面に座った金髪の女性——ローズは深々と頭を下げる。
それに対して僕は、
「こちらこそよろしく。どうやって魔族を倒し、この街を救うのか、具体的な案はあるのかな?」
と質問してみた。
ローズが顔を上げて僕の質問に答える。
「具体的な作戦まではまだ考えていません。相手はこの街の領主ですからね……生半可な策では墓穴を掘ることになるかと」
それに、とローズは続ける。
「ノアさん達がこの街へ来るまでの間、ずっと諜報活動ばかりに力を入れてきました。他の観光客の方を守ったり、余所のハンターを守ったりと。言い訳にしか過ぎませんが、落ち着いて作戦を練る時間はありませんでしたね」
「ああ、だから騎士の男たちはあの霧を警戒してたのか」
彼女は何度もあの騎士たちと争っているとは思ってた。
僕が目の前にいるにも関わらず、彼らは霧を見た途端に警戒していたからね。
まあ普通に考えて、都市に霧が発生したら誰でも警戒するとは思うけど、そこはあれだ、彼らは知ってる風な口ぶりだったから余計にそう思った。
「ええ。あの魔法はわたしが得意とする水属性の魔法を駆使したものです。霧の生成には時間がかかりますが、よほど強い風の魔法でも使われない限りは、相手の視界を奪うことができます」
「やっぱり水の魔法だったか。予想以上に優秀な魔術師なんだね」
水の魔法を霧状にして使う魔術師など僕ははじめて見た。
これまで出会った魔術師の大半が、攻撃系統の魔法に重きを置いていたこともあるが、ああいったサポート向けの魔法まで使える魔術師はそう多くない。
例に出すと、勇者のパーティーにいるダリアと僕のパーティーにいるアリシアがそれに該当する。
二人とも魔力の圧縮は得意だが、手元から離れた魔力の操作を苦手としている。
そして二人のようなタイプは珍しくない。
むしろ魔術師全体を見ると、魔法とは魔物を攻撃するためのものだと認識している者は多い。
実際、補助系の魔法より攻撃系の魔法の方が種類は多く、実戦的に使う者も多い。
ミュリエルみたいな特殊な属性に対する高い適正を持つ者は別だが、基本属性を操る魔術師はやはり攻撃に偏る傾向がある。
僕とて、闇の魔法を除けば基本的に攻撃系の魔法を早期に習得した。
これは、早い内から魔物と戦えるようにするためで、魔物のはびこるこの世界においては当たり前の考えだ。
「ええまあ、覚えるのは苦労しました。魔力が離れると途端に操作が難しくなるので」
「性質上しょうがないさ。鞭や弓矢のような武器だって、攻撃範囲が伸びれば伸びるほど、扱いが難しくなる」
魔法もそれと同じだと僕は思う。
「めげずに習得し、それを当たり前のように扱えることが僕はすごいと思うよ。他にはどんな魔法が使えるんだい?」
「他、ですか? もちろん攻撃系の魔法も使えますよ」
「身体強化も使えたしね」
「はい。身体強化は魔術師ならば誰もが覚えようとする魔法。基本中の基本です。……まあ、わたしにはあまり適正がありませんでしたが」
そう言ってローズは苦笑する。
苦笑するが、
「十分だと思うよ。あれなら魔物が相手でも役に立つ。風の魔法も使えるんだろう? 多彩だね」
僕は紅茶を飲みながら素直に彼女を褒めた。
単純な魔力の出力——攻撃力という点ならアリシアに軍配は上がるが、多彩さという点においては彼女の方が遙かに優秀だろう。
それを理解しているのか、僕の隣に座るアリシアがやや不機嫌そうな表情で僕を睨む。
ごめんて。
身体強化魔法が得意じゃないうえ、火と風ばかりの魔法を使い、あまつさえ攻撃に特化した自分の力じゃ不満ですか?
と彼女の表情には書いてあった。
なので僕も苦笑いを浮かべる。
「ありがとうございます。器用貧乏とも言えますが、そう言っていただけると自信が出ますね」
「どういたしまして。……それで、この街に関しての情報をもっともらえるかな? 魔族の居場所とか、こんな作戦はどうかとか出してくれるとこちらとしても動きやすい」
さて、と言ってから僕は話題を元に戻す。
目下、僕らの目標は魔族の討伐だ。
加えてローズの家族を守る必要がある。
どちらがより成功確率が低いかと言われれば、僕は断然後者だと思う。
魔族は最悪、僕が倒せばいいからね。
しかし、いくら僕でも普通に戦えば魔族を倒すのに時間はかかる。
この街や領主の館がどうなってもいいなら短期決戦は可能だが、それをすると彼女の家族が危険に晒される上、英雄から魔王ルート一直線な気がするので全力は出せない。
ゆえに、僕は彼女に何度でも問いかける。
この街の状況や地理、魔族の情報などをできるだけ。
情報は多いに越したことはないからね。
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