第81話 増援
「ぐ……うぅ!」
僕の言葉に、苦しそうな声を上げながら一人の男が立ち上がる。
先頭に立ってた男だ。
僕の攻撃魔法をモロに喰らっておきながら立ち上がれるとは……。
鎧だけじゃない、恐らく身体強化系の魔法が使えるのだろう。
しかし、防御は完璧じゃない。
剣を地面に突き立ててなんとか立ち上がる。
「あんまり無理すると体に悪いよ。全身が、脳が揺れるようで気持ち悪いだろう? ゆっくり倒れるといい。僕としては、質問さえできればそれでいいからね」
「ほ、ざけ! 我々騎士が、たった一撃で……ハンターなんぞに!」
ギロリと僕を睨む男性。
我々騎士が、と言われてもね。
騎士の本懐は民を、国を、王を守ること。
犯罪者と一緒になってハンターを襲ってる時点で、それは果たして騎士と名乗れるのだろうか。
疑問が残る。
「何を言ったところで状況は変わらない。あんたら騎士がどんな理由で僕らに手を出し、彼ら犯罪者に加担するのか知らないけど、君らの負けだよ。相手が悪かったね。魔法を前にした剣士なんて、意外とこんなもんさ」
「チッ! ふざ、けるな。本来の力さえ、発揮できて、いれば!」
僕に、魔術師に勝てたと?
たしかにいくら魔術師と言えども無敵ではない。
魔法を使う際に魔力を練り上げる隙が生まれ、何より魔法を防がれると魔力の消費がない分、継続戦闘能力で近接戦闘を得意とする者に劣る。
だが、それはあくまで同レベル、もしくは自分より弱い相手に当てはまる常識だ。
格上の魔術師の魔法は、一般的な剣士や騎士では防げない。
魔力の操作が得意な者なら、手元から離れた魔法ですらある程度操ることができる。
操ることができるなら、曲げたり散らしたりと自由自在。
追尾性能付きの魔法からは、誰も逃げられない。
逆に、卓越した速度と技術を持つ剣士には、格下の魔術師がどう足掻いても勝てないのと同じだ。
結局のところ、勝てる相手とは自分より弱い者を差す。
工夫次第で格上すら喰う……ような状況は、そうそうありえないのだ。
特に僕の場合、生まれながらのチート魔力持ち。
かの勇者ですら僕には敵わない。
残念ながら、一介の騎士では相手にすらならない。
「なんでもいいけど、立ってるのがやっとだろう? 僕にあんたらを殺す気はないし、ここは素直に情報を吐いてくれると嬉しいな。さすがに騎士を拷問するのは嫌だよ」
拒否されたらまたあのミニトルネードによる拷問がはじまる。
見た目だけは正義の味方っぽい騎士を相手に、それができる自信はあまりなかった。
「あまり、我々を舐めるなよ……この街にいるかぎり、貴様らがいかに強かろうと、勝算はないと知れ!」
「ふーん」
この街にいるかぎり、か。
予想通り、この街には何かある。
シナリオに直接の絡みはないが、後半で街が滅びるのを僕は知ってた。
だからまだ序盤か中盤でしかない現状なら、問題はないと思っていたが……。
どうやら、この街を覆う問題はずっと根が深いらしい。
じっくりと、毒が回るように滅ぼされるのだろう。
「面白い情報をありがとう。その調子でペラペラ話してくれると嬉しいな」
「ふ。ふふ、ふ」
僕が感謝の言葉を述べると、それを聞いた騎士の男が小さく笑う。
「どうしたの? 気でも触れたかい? それとも諦めた?」
「ふふふ、くくく! わたしが何の意味もなく貴様とお喋りに興じてたとでも?」
「?」
どういう意味だ。
僕が首をかしげ、男に問いかけようとした瞬間、——それは聞こえた。
ガシャガシャとこちらへ向かってくる、重苦しい足音と鎧の擦れる音。
右へ視線を向けると、数十メートルほど先に目の前の男たちと同じ鎧を身に纏った集団が見えた。
間違いなく僕たちの元へ駆けつけようとしている。
「あー、なるほど。増援か。あんたはこれを待ってたから余裕があったわけね」
「そういうことだ。わざわざ路地裏から出てきてくれてありがとう。通りなら広く陣形を取ることができる。数も圧倒的に我々が有利だ! 同じ手が二度も通用すると思うなよ!」
目の前の男が喜びに口角をつりあげ、しっかりと立ち上がる。
時間をかけたことで体力がある程度は戻ったらしい。
剣を構え、隙なく僕を見つめる。
僕が咄嗟に背後の路地裏へ逃げようとか考えないと思ってるのかな?
それとも、最悪、逃げられてもいいと考えてるのか。
どちらにせよ、僕はため息を吐いてその場に留まった。
逃げる理由はない。
彼らがそれを望むなら、とことん戦ってやろう。
恐らく、それがこの街を救う一手になるはずだと信じて。
「しょうがない……もう少しだけ頑張ろうかな。アリシア達には悪いことを言ったな。追加で時間が掛かりそうだ」
とうとうすぐ近くまで迫った騎士たちを視界に捉えながら、僕は魔力を練り上げた。
——そのとき。
不意に、騎士たちが来た方とは逆側から、やたら濃い霧のようなものが発生し、漂ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます