第79話 どうなってんだこの街は
「俺……いや、俺らはあんたが持ってる金と、仲間の女を狙って行動したんだ……」
風の魔法が消えて、ポタポタと血を流しながら男が話はじめた。
「金と女、ね」
「金の方は魔石を少ししか換金してなかったから、あんまり期待してなかった。けど、連れてる女は全員よかったからな……本命はそっちだ」
「つまり、僕を殺して彼女たちを誘拐するのが、君たちの目的だったと」
「べつに殺す気はなかった。無力化して衛兵にでも渡せばそれでいいと思ってたんだ」
「……ん? 衛兵に、誰を突き出すって?」
男の言葉がおかしいことに気付く。
だって衛兵とは、市民や街の平和を守る存在。
そんな彼らに僕を届けたりしたら……。
生まれた違和感。
その正体に辿り着く前に、背後から足音と金属の擦れる音が聞こえた。
反射的に視線をそちらへ向ける。
「——おい貴様ら! こんな所でなにをしている!」
見ると、彼らは全員が金属鎧を身に纏っていた。
手には剣やら槍を持ち、険しい顔付きで倒れる男たちと僕を見た。
事情を知らぬ者からしたら、この状況は僕の方が加害者に見えるのではないか。
ふと、そう思ってわずかに焦る。
「あー……これは、なんというか……」
襲われたから撃退中です、と言って説明になるのか。
証拠は何もない。
ただ、傷付いた男たちが地面に転がるのみ。
男たちが騎士風の連中に助けを求めたら、状況は悪くなりそうだ。
しかし、それ以外に何か話すこともないので、僕は諦めて正直に今の状況を説明した。
「なるほど。ハンター協会を出たら、そこの男たちが後ろを追いかけてきて、襲われたから撃退した、と」
「簡単に言えばそうなりますね。彼以外は全員無傷で捕らえていますから、欲しいなら引き渡しますよ?」
異世界転生もの、というかファンタジーものの定番だ。
犯罪者を引き渡すとお金が貰えるやつ。
前の街だとよくわからん犯罪者を捕らえ、引き渡したら報奨金が貰えた。
もしかすると彼らを渡せば何か貰えるんじゃないかな?
期待に胸を膨らませた僕。
だが、現実はそんな簡単にはいかないらしい。
騎士風の男、先頭に立つひときわ屈強な男が、僕の説明を聞き終わると、僕を無視してやれやれと肩をすくめた。
そして、
「まったく……完全な奇襲をしたにも関わらず容易く撃退されるとは……貴様ら、それでもハンターか? いつもは威張ってるんだ、あまり我々に苦労をかけるな」
と言った。
それに反応したのは僕ではなく、
「うるせえ……こいつらメチャクチャ強いぞ。女の方は知らないが、少なくとも男はやばい。触れられると麻痺の魔法をかけられる」
僕に近くにいた男だ。
麻痺による痺れが少しだけ軽くなったのか、悔しそうに表情を歪めながら言葉を吐き捨てる。
その会話に首をかしげるが、なおも彼らは話し続ける。
「ふむ……希少な魔法の使い手か。お前らを近接戦闘で圧倒したうえ、魔術師ということなら……あの方の手下に推薦するのもありだな。当然、薬か洗脳による支配は受けてもらうが」
「俺は殺した方がいいと思うけどな……魔術師に洗脳は通用しにくいだろ」
「まあな。それゆえに殺すか薬による思考能力の低下しか施せない。地道ゆえに面倒……魔術師が街から減るわけだ」
「あの……さっきから何を」
不穏な空気を感じ取る僕。
もはやこの先の展開などバカでも読めるが、一応、声はかけておく。
すると、騎士風の男が小さく笑った。
「わからぬのか? 今から貴様らを拘束する。余計な抵抗さえしなければ、痛い目に遭わずに済むぞ? どうする?」
「騎士が一般人に手を出すのか? 僕らの身元はハンター協会に行けば証明される。何なら、ハンターライセンスを見るかい?」
「その必要はない。ハンターライセンスを見ようと、ハンター協会へ行こうと結果は変わらんよ。むしろ、ハンター協会へ行きたいなら我々は構わん。誰も、お前らの味方などしてはくれんからな」
「……なるほど。お前らグルか。犯罪者と騎士が手を組むなんて何の冗談だ?」
「ふん、それがこの街の常識だ。ハンターなんぞになり、そいつらの目に留まったのが運の尽き。……まあ、襲われずともいずれ、危害を加えられただろうがな。——総員、武器を取れ! 不埒な輩を拘束する!」
男が叫び、後ろにならぶ騎士たちが一斉に武器を構えた。
どうやらやはり、ハンター達の仲間らしい。
これ以上の説得は通じない、と。
「めんどくさいな……どうなってんだ、この街」
僕は愚痴りながら魔力を練り上げる。
こちらの邪魔をするというのなら、容赦はしない。
全員まとめて捕縛して、牢屋にでもぶち込んでやろう。
第二ラウンドのはじまりだ。
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