第77話 予想通りの展開

 魔石の換金を終わらせて、ハンター協会を出る。


 最後まで男たちの視線を受けながら、僕は街中のほうへと向かった。


「…………」

「ノア様?」


 ハンター協会を出てからずっとだんまりしたままの僕に、シャロンが首を傾げた。


 アリシアやミュリエルもそうだ。

 なんとなく僕の雰囲気がいつもとは違うことを察したらしい。


「ああ、ごめん。ちょっと魔法を使ってたら探知に反応があって」

「探知に?」

「うん。ハンター協会を出たときから、僕たちの後をつけてくる相手がいるっぽいんだ。それも複数」

「え!?」


 僕はどんな場所であろうと、定期的に探知の魔法を使う。


 仮に奇襲されようと問題はないのだが、アリシア達のためにも、魔法の練習にもなるからよく使う。


 そして今回、ハンター協会にいた連中の様子を見て、一応探知魔法を使っていたのだが……ビンゴ。


 だいたい三十メートル間隔で僕らを追う人間を五人見つけた。


 街中だと普段使ってるような探知の魔法はあまり役に立たない。


 というのも、探知の魔法とは魔力を掴み読み取る力だ。

 人間は魔法が使えなくても微量の魔力を有している。


 であれば、そんな人間の多い街中で使えばどういうことになるか……まあ想像するのは簡単だ。


 なので、僕は街中だと探知の魔法をあえて効果を落として使っている。

 厳密には探知範囲の縮小。


 数十メートルとかそのくらいに抑えて使えば、彼らのようなストーカーを見つけるのは存外、容易い。


 これも魔力が無限だからこそできる。恩恵さまさまだ。


「魔力の量から見ると、魔術師は一人だね。他は全員が近接戦闘能力の持ち主、かな。合計五人。ちょっと話を聞きたいから、迎えうってもいいかい?」

「ふ、不安はありますが、ノア様が問題ないと仰るなら……」

「わたしは構わないわ」

「が、頑張ります……!」

「ありがとうみんな。今回は僕が相手するよ。念には念を入れて、ね」


 仲間の魔術師が保有する魔力量は決して多くない。


 総量だけ見ればアリシアより低い。

 ならば僕の負けはありえない。


 油断はしないが、彼女たちを危険に晒さないよう、久しぶりに僕が戦う。


 ちゃんと手加減しないとね。




 ▼




 場所を移して路地裏。


 三人も並んで歩けば壁に肩や腕をこすってしまいそうな狭い道を歩いていると、急に背後の気配がすごい速度で近づいてきた。


 やはり僕の想像通り、人がいないと襲ってくるんだね。

 何もしないなら関わろうとはしなかったのに。


「みんな、来るよ」


 僕がそう言うと、三秒ほどの間を置いて、言葉などなく背後から魔法が飛んできた。


 しかし、僕の防御魔法に阻まれてあっけなく虚空へ消える。


「なっ!? お、俺の魔法が打ち消された!?」


 程々に自信でもあったのか、ローブを着た男が思わず叫ぶが、威力、効果ともに低級な魔法だ。


 防御できないほうだおかしい。

 おそらく相手にこちらを殺す気はない。


 でなきゃ、あんな魔法で奇襲する意味はないからね。


「風の魔法か。殺傷力を奇襲に求めるのはいいけど、相手を見誤ったね」


 足を止めた僕らは、くるりと一斉に反転。

 五人のハンターらしき男たちと視線を交わらせる。


「クソッ! 俺らの気配に感づいてやがったのか? 特殊技能の持ち主か」

「男のほうは魔術師だ。俺の魔法を打ち消すほどの防御魔法を使える。手練れだぜ」

「どうする? 顔を見られた以上、逃すと厄介なことに……」

「ならねえよ。この街ならどうにでもなる。それより、逃げるにはまだ早い。もっと情報を引き出すぞ!」


 うん?

 何やら聞き逃せない言葉が聞こえた気がする。


 普通、相手の力量が未知数なら、迷わず逃げるのが戦略だろう。


 とくに相手はもはや単なる犯罪者。

 このことを僕らがハンター協会でばらせば、証拠がなくてもまともな活動はできなくなるはずだ。


 そんなリスクをわざわざ背負ってまで、戦う意味……。


 この街ならどうにでもなる、——という一言が、おそらく関係してるのだろうが……。


「なんだか色々と訊きたいことが増えたな……状態異常にでもして縛り上げるか。攻撃魔法を使うと、殺しちゃうだろうし」


 武器を手にこちらへ迫る男たちを見ながら、僕は一歩、また一歩と前に出る。


 状態異常を付与する魔法は、便利だが魔力の変換が難しい。


 炎や水といったものに比べて、イメージが難しいからね。


 それに、使える人はほとんどいない。

 属性にわけるとしたら、闇に近いからね。


 僕みたいな特殊な人間でもないし、自由自在には扱えないのだろう。


 こういうとき、闇系統の魔法が使えてよかったと心底思えるよ。


「さあ、お仕置きの時間だ」


 僕は手をかざし、魔力を練り上げる。


 いきなり体が痺れる恐怖を味わうといい——なんて子悪党な言葉を呟いて。

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