第70話 怪しい騎士たち
クリミアの街に続く検問所に到着した僕ら。
閉ざされた門の前に馬車を止めると、数名の騎士風の男性が出てきた。
「こんにちは騎士様。この度は……」
現れた騎士にたいして、御者のおじさんが状況を説明する。
と言っても、御者のおじさんは何度もこの道を通ってきたベテランのはず。
簡単な挨拶などを済ませると、騎士たちが僕たちを室内へ通す。
なんでもハンター達を含めて、一応は検問所で簡単な話をするということだ。
普通に考えてそこまでするのが検問所なのかと疑問に思うが、僕に異世界の知識は皆無なのでそんなものだろうと適当に納得しておく。
そして通された部屋で質問を受ける僕ら。
ほとんど個別による聞き取りなのか、アリシア達とは部屋が異なった。
訊かれる内容も他愛ない内容だ。
どんな仕事をしてるとか、クリミアの街には何の用で行くのか、などなど。
僕はそれらしい答えを用意して目の前の騎士を満足させると、意外にもあっさり通行の許可が出た。
それなりに時間がかかるものだと思ってたばかりに拍子抜けもいいところだ。
招かれた部屋を出ると、ちょうど他のメンバーも聞き取りを終えたらしく、合流してそのまま馬車に戻る。
御者のおじさんだけ唯一、数名の騎士とともに外で待っていたから、荷台に乗るなりすぐ馬車は動きだした。
「ねえ、ノア様」
「ん? どうしたのアリシア」
馬車が走り出し、検問所を通り過ぎてから、アリシアが真剣な表情で僕に声をかける。
わりと小さな声で。
「さっきの検問所なんだけど、わたし、あんな場所知らなかったわ」
「……というと、前に来たときにはなかったと?」
「ええ。クリミアの街に着くまでの間、休憩以外では一度も外へ出なかった。いくらその時のわたしが貴族とはいえ、両親が顔を見せたり、騎士が顔を見せたりするでしょう?」
「そうだね……どんな相手が忍んでいるのかわからない以上、例外はないはずだ」
「だとしたら、あの検問所は最近できたばかりの建物。それだけなら、領主の危機意識が高いってだけで納得するんだけど……」
少々遠慮がちに彼女は続けた。
「あの騎士たちの顔——というか目が、なんか変だったの」
「奇遇だね。僕もまったく同じことを思った」
それは馬車の中で見たときから思っていた。
なんだかあの検問所を守る騎士たちの顔が、虚ろというか生気がないというか……とてもじゃないが、騎士っぽく見えなかったのだ。
まるで見えない糸にでも操られている人形にすら思えた。
そしてそれは、アリシアも同じだという。
「ただ、何をされたわけでもなく普通の聞き取りだったから、僕らの勘違いという線もある。もしかするとあそこを守ってる騎士たちはみんな覇気がない、みたいな」
「本気で言ってる……わけないわよね」
「まあね。前の街じゃ、騎士たちは普通だったし」
それが、あの検問所の騎士たちは全員が同じ表情を浮かべていた。
そんな偶然というか場面に出くわすことなんて普通はありえない。
「ノア様はどう思う? 何かあると、そう思う?」
「どうだろうね……仮に何かあったとして、それを僕らの手で解決したいと?」
「そこまでは言わないわ。けど、これから何日も厄介になる場所が面倒な所だとしたら……旅をまともに満喫できないと思ってね」
「たしかに。場合によっては早く街を出ることも視野に入れる、か」
「それが利口ね。さすがのわたしも、問題解決をしよう、なんて馬鹿なことは言わないわ」
そう言いながらも気になるあたりはアリシアらしい。
なんだかんだ言って、彼女は意外と優しいからね。
困ってる人がいて、自分がそれを解決できるなら手を伸ばしたい。
かつて自分が助けられたからこそ、そう思うのだろう。
しかし、僕にはなんとなく心当たりくらいはあった。
もしあの騎士たちが何かしらの問題に巻き込まれているのなら、それは高確率でゲームのイベント……あるいは、ゲームのシナリオに沿って起こる何かしらの問題だろう。
それが最終的に街の滅亡に繋がるなら、僕の予想通りと言える。
「取り合えず、街に着いたらそれとなく調べるとしよう。何かわかったら、暮らす上でも安心できるだろうしね」
「ええ、了解よ。シャロン達には?」
「あとで話しておこう。僕たちの中でもまだ想像の域を出ない。少しくらい証拠というか情報を仕入れた方が、説明もしやすいはずだ」
「そうね……下手に話して二人を巻き込むのは嫌だもの。賛成よ」
こうして僕とアリシアは、まだ見ぬクリミアの街に、一抹の不安を抱えながら向かうのだった。
一体、あの街では何が起こっているのか。
まだ当分は先のことだと調子に乗ってきたことを後悔しなきゃいいけど……。
僕は、外の景色を眺めながらそんなことを思った。
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