第68話 大成功

「「……マヨネーズ?」」


 早速、昼食の準備がおわった途端に僕がつくった調味料をアリシアとミュリエルに教える。


 だが、二人とも僕が持つ皿のクリーム状のものを見て、シャロンと同じ表情を浮かべていた。


「ああ。これは僕がしり合いに教えてもらった調味料でね。今はサラダくらいにしか使い道はないが、興味があったら肉にも垂らしてみるといい。それはそれで美味しいだろうからね」

「これを、サラダや肉に……? わたしとしては、あまり怪しい物はくちにしたくないんだけど……」

「アリシアさんの仰ることはよくわかります。わたしも最初はあまりよい感情を抱きませんでした。——が! ご安心ください。このマヨネーズなるものは間違いなく美味しいです! わたしが胸を張ってそう断言しましょう!」

「へ、へえ……シャロンがそこまで言うほどのものなの?」

「はい! わたしは早くマヨネーズをつけて肉を食べてみたいです。試食させてもらいましたが、少なくともサラダには抜群の相性かと」

「肉に付けるにはもっと別の味付けの方がいいんだけど、僕のしり合いは肉にもつけて食べるほど好きだったから、人によっては合うはずだよ。まあ、シャロンには言ったけど、個人差はある。好き嫌いが存在する以上、二人の口に合わない——という可能性もある。それを考慮した上で、使うかどうかは自由に決めてくれ」


 それだけ言って僕は、皿を地面に置いた。

 汚れ防止のシートをしいた地面には、様々な料理が広がる。


 遠くから護衛を担当するハンター達の視線が送られてくるが、生憎ときみ等にプレゼントする気は毛頭ない。


 作品によっては主人公が普通に料理を振るまうシーンなどが見られるが、僕はそこまでお人よしじゃないよ。


 話したこともない、素性も知らない相手に料理の一口だって譲らない。


 ケチと思えば思うがいいさ。

 城壁に囲まれていない街の外では、たった少しの食料だって無駄にできない。


 物資とは有限なのだから。


 ……ともかく、食事をはじめよう。出発までに片付けをしておかないといけないからね。


「さ、というわけでいただこうか。肉とサラダはならんでるだけ。パンはかなりの量を買い込んだからおかわり自由だよ。……いただきます」


 最後にお決まりの日本人らしい一言を添えて、僕らの食事がはじまる。


 まず真っ先に僕が手をのばしたのは、サラダだ。

 シャロンには食べさせたが、まだ僕自身が味わっていない。


 スプーンを使いマヨネーズをすくいあげ、サラダを取り分けた小皿にたらす。


 スプーンを元の皿に戻したあと、フォークで野菜を刺して食べた。

 すると、


「うん! 美味い!」


 口いっぱいに懐かしい味が広がった。

 やはり野菜にはマヨネーズ。


 ケチャップや他の調味料も用意したいが、ない物はしょうがない。

 そのなかで頑張って作ったマヨネーズは格別の味がする。


 シャロンも僕と同じく野菜にマヨネーズをかけて食べる。

 表情が幸せそうで見てて癒された。


「……すごく、美味しそうに食べるわね。本当にそのソースみたいなのは美味しいのかしら?」

「僕とシャロンが絶賛するくらいにはね。とはいえ無理しなくてもいいよ。万が一にも合わない可能性はあるし」

「そうだけど、そこまで美味しそうに食べられると気になるわ……ええ、気になる。すごく、気になる。——だから!」

「お」


 アリシアが勇気を出してマヨネーズをすくう。

 そのまま取り分けたサラダにマヨネーズをかけて、おもむろに口へ野菜を放り込んだ。


 そして一回、二回とゆっくり噛み、


「お、美味しい……!」


 という感想を述べた。

 おもわず心の中でガッツポーズ。

 どうやら彼女にもマヨネーズはうけたらしい。


「不思議な味ね……ちょっとすっぱいのだけど、それがたまらなく欲しくなるというか、もっと食べたくなる味というか……」

「アリシアさんのいう通り! マヨネーズは中毒性の高いものです。わたしはこの味が忘れられそうにありません……定期的に、ノア様に作ってほしいです」


 なんて言いながらシャロンは肉にマヨネーズをかけていた。

 言われてすぐに試そうとする度胸がすごい。


「ああ……お肉に付けても美味しい……これは、毎日のように食べたくなりますね」

「ご、ごくり!」


 次々と肉をたべていくシャロンの様子を見て、ミュリエルが喉を鳴らした。


 彼女もまた、おそるおそると言ったようにマヨネーズをすくい、なんと、野菜ではなく肉にたらした。


 いきなりそちらへ行くとは、ずいぶんと豪胆だ。


 しかし、マヨネーズ付きの肉をたべた途端、ミュリエルの表情が崩れる。

 シャロンと同様に、すごく幸せそうな顔だ。


 言葉にしないぶん大人しいのだが、表情がにょじつに物語っていた。彼女の感想を。


「ふふ、みんなマヨネーズを気に入ってくれたようだね。今度は魔法を使って作るから、たくさん作り置きしておくよ」


 混ぜまくってから思いついたアイデアだ。

 べつに腕を動かさなくても魔法をつかえば楽じゃね? と。


 しかも魔法なら空気もほどよく入ってさらに上手く作れそう。

 空気が必要なのかどうかは知らないが。


「ありがとうございますノア様! これで飽きるまでマヨネーズが食べられますね!」

「ええ、最近の中では間違いなく最高の情報よ! ノア様は料理の腕まで天才だったのね」

「料理が、楽しみになりましたね……すごく」


 三者三様、ほぼ同じ喜びへいたる。


 だが、そこまで喜んでくれると作ったがわの僕まで嬉しくなるのだから……悪くないね。


 その後もマヨネーズの感想を交わしながら、僕らの昼食はつづいた。

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