第67話 チート調味料

「——うん、悪くない味だ」


 ぐるぐると他の料理ができあがるまでの間、ずっと大皿の中身をまぜ続けた結果、それっぽい感じのマヨネーズが完成した。


 僕は毒見もかねて人差しゆびでクリーム状になったマヨネーズをすくい、ぱくりと一口。


 口内に広がるなんとも懐かしい味に、頬がわずかに緩む。


「そ、それがノア様の言ってた調味料ですか……?」


 僕が嬉しそうにマヨネーズを食べる姿を見て、仕事を終えたシャロンが怪訝な視線を向ける。


 まあ無理もないか。

 知らない人間からすれば、マヨネーズは得体のしれない謎の液体? だ。


 見た目も含めてあまりよい印象は抱けない。

 だが、本当に美味しいのだ。


 サラダはもちろんのこと、肉料理にだって使えるしパンにも合う。


 さらに工夫すればよりよい調味料にだってなるだろう。


 和の国最強の調味料、醤油に比べれば選択肢こそ少ないが、マヨネーズもまた偉大なる調味料なのだ。


「そうだよ、これがマヨネーズ。ハマる人にはハマる最高の調味料だ。僕が知ってる物より味や質はおちるけど、これはこれで中々の味だよ。早速、サラダに付けて食べようか」

「ノア様を疑うのは失礼かと思いますが……その、見た目のほうがあまり美味しそうには見えません……」

「だろうね。知らない人にはへんな臭いのする謎のクリームにしか映らないと思う。けど、一口食べれば文句はでないさ。……もちろん、味の好みは誰にでもある。合わない人はいるだろうけどね」

「クリーム……という事は、甘いのですか、それは?」

「全然。むしろすっぱいと言うべきかな。さすがに甘いものをサラダにかけて食べる人はいないだろう?」

「あ、そう言えばそうでした。でも、すっぱい? レモンみたいな?」

「そこまですっぱくないよ。酸味は抑えてある方さ。より酸味を強くすればタルタルソースにも……とまあ、それはおいおい作るとして、実際に食べてみたらわかるよ。この最強の調味料の魅力がね」


 いくらこと細かく説明しようと、知らない人間にマヨネーズの良さを語ったところで無意味。


 ならばシャロンには犠牲? になってもらおう。

 大食いかつ好き嫌いのない彼女ならば、きっとマヨネーズも受け入れてくれると信じて。


 僕はシャロンが切ってくれた野菜を一つまみ。

 キャベツっぽい感じのその野菜にマヨネーズを付けて、シャロンに手渡した。


「ささ、食べてくれ。直接口にするのはちょっと憚られるからね。こうした方が食べやすいと思うよ、最初は」

「こ、これがマヨネーズ……ノア様が最強というほどの調味料……」


 シャロンは野菜に付いたマヨネーズをひとしきり観察したあと、意を決して野菜を口に放り込んだ。

 そして咀嚼。


 カッと目を見開いた。


「な、なんて濃厚な味!? たしかにノア様がおっしゃる通り、すっぱい味付けではありますが、それが食欲を無限に高めると言いますか、すんなり食べられると言いますか……」

「端的に言って?」

「すごく! 美味しいです!!」

「それはよかった」


 瞳を輝かせているシャロンの顔を見るかぎり、僕に遠慮して本音を隠してるわけじゃなさそうだ。


 ちゃんとマヨネーズが美味しいものだと受け入れてくれてホッとする。


 残りのアリシアとミュリエルも食べられるといいな。


「一昨日に試飲したコンソメスープもそうですが、ノア様は料理が得意なのですか? それに、わたしやミュリエルも知らない料理ばかりを作る……」

「あー……はは。ちょっと嗜むくらいだよ。本業の人には遠くおよばない。それに、知り合いから珍しいレシピを教えてもらっただけさ。珍しいものは僕みたいな趣味人が作っても美味しくなる。なんせ珍しいからね」

「そんなことありません! これはすごく美味しいものですよノア様! 野菜以外にもきっと合うと断言します!」

「シャロンがそこまで気に入ってくれてよかった。アリシアとミュリエルが食べられない場合は、一緒に処理するの手伝ってね」

「はい、お任せください! 不肖シャロンめが、マヨネーズの消費を全力でお手伝いしますとも!」

「……無理しない程度にね。アリシアたちが肉も焼いてくれてるし」


 無駄にくい意地の張ったシャロンを落ち着かせながら、僕らは横で待機してるアリシア達のもとへ向かった。


 すでに肉の焼ける匂いがここまで漂ってくる。


 焼き肉のタレなんかも作れたら、最高に幸せになれるんだけどなあ……。

 頑張って大豆を見つけて挑戦してみるべきか?


 先は長いね。


 いかに先人たちが有能だったかを思い知らされる。

 あと、元の世界の文明やら技術やらがすごかったのだと。






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