第66話 マヨネーズ作り

「そろそろ馬を休めたいので、ここら辺で休憩にしましょう」


 馬車を走らせること数時間。

 街道の外れに馬などを寄せた御者のおじさんがそう言った。


 僕らや護衛のために同乗してるハンター達が荷台から下りて、しばらくは休憩となる。


 陽の傾きかたからすると、現在は昼を過ぎた午後。

 早朝から街をでたと考えると、随分な距離を移動したものだ。


「ねえノア様、早く料理を作りましょう。シャロンなんてあんな調子よ?」

「……お、お腹が……すきました……」


 アリシアに言われて視線を向けると、草原地帯によろよろと倒れた少女が一人。


 シャロンだ。

 お腹をおさえてげっそりしてる。


「あはは。だから少しくらいは食べればって言ったのに」

「あの子、料理を食べるのが楽しみすぎて、途中、なにも食べなかったものね。軽食くらいは出せたのに」

「シャロンらしいと言えばシャロンらしいね。けど、仮に料理を作るにしてもそれなりに時間はかかるよ? 大丈夫かな、あんな様子で」

「調理をはじめたら復活するでしょ。全員で作ると約束したのだから」

「ま、最悪、僕とミュリエルさえ問題ないから平気か」

「あら? わたしも肉を焼くくらいなら問題ないわよ? 戦力として数えてもらえるかしら」

「そうだったね。ごめんごめん。じゃあお言葉に甘えて、アリシアには肉を焼いてもらおうかな」

「任せて。一昨日、夢に見るくらい練習したからそれくらいなら問題ないわ」

「いいね。ミュリエルにはアリシアの手伝いを。シャロンには僕の補佐に回ってもらおうかな」


 役割分担を決めて、シャロンを励ますミュリエルに声をかけた。


「ミュリエル! そろそろ料理をはじめるよ。シャロンを連れてきてくれ」

「わかりました。……ほら、シャロン。料理を作るってさ。シャロンが頑張った分だけ早くできるよ」

「りょ、料理……? ハッ! 料理なら、お手伝いします!」


 驚きの速さでシャロンが復活した。

 けど君がやるのは野菜をきる作業だよ。


 剣士なだけあって、彼女は誰よりも野菜を切るのが上手い。


 僕はそんな彼女が切った野菜を皿にもって、特製のマヨネーズでも作ることにした。


「はいおいでシャロン。君には大量の野菜を切ってもらう。ここだと人の目があるから大きなまな板は出せないから、切った野菜はすぐにこの大皿へ移してね」

「わかりました! お任せください」

「うん、いい返事だ。僕は野菜に付けるための……なんて言えばいいんだろう。野菜が美味しくなる調味料を作るから、頼んだよ」

「野菜が美味しくなる調味料?」

「名前はマヨネーズ。野菜以外にも使えるから意外と便利なんだ」

「なるほど……“まよねーず”なるものはサッパリわかりませんが、取り合えずわたしは野菜を切ればいいんですね。それなら問題ありません」


 そう言って胸を張るシャロン。

 野菜を渡してあげると、すぐに切りはじめた。


 僕もマヨネーズ作りに移る。


「さて……マヨネーズに必要なのは、たしか……」


 荷物の袋からとり出すフリを装って、収納魔法からいくつかの材料を出す。


 卵に、塩、油にお酢。

 これで簡単にマヨネーズを作れる——はず!


 シャロンに渡したのとほぼ同じくらいの、底の深い大皿を出し、そこへタマゴを次々と割っていく。


 時間の概念がない収納魔法さまさまだ。

 普通、タマゴを生でつかうと確実に問題を起こす。


 だが、僕なら何の問題もない。

 ちゃんと新鮮な卵を買っておいたしね。


「割ったタマゴの中に塩とお酢をいれて……ひたすらかき混ぜる!」


 これがマヨネーズを作るうえで一番大変な作業だとおもう。


 前世ではありふれた泡立て器が、この異世界には存在しない。


 作るという手段もあったが、そうなると旅がはじまるまでに時間がかかる。


 なので僕は我慢をし、自分自身が頑張ることを誓った。

 誓って、ただひたすらに卵黄を混ぜる。

 混ぜて、混ぜて、混ぜて、混ぜる。


 そして卵黄がもったりしてくる頃合いを狙って、少しずつ油を混ぜていった。


 こうすることで卵黄が白っぽく、クリーム状になるとかなんとか。


 実際に前世でためしたことがないため、さらに使ってる材料が異なるため、上手くいくとは思っていないが……。


「意外と、悪くないね。少しは白くなった、かも」


 やればやるほど理想? のクリームになってくる。


 当然、味や質はおちるだろうが、それでもマヨネーズらしきものになりさえすればそれでいい。


 マヨネーズは僕も結構すきだから、作れたらかなり嬉しいよ。


「さてさて、もっと頑張らないとね……」


 他のメンバー達が楽しそうに調理をする中、僕は身体強化魔法をつかいながらひたすら卵黄をぼう状のもので混ぜていくのだった。

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