第62話 甘味にかぎる

「……これでよし、と」


 鍋やさまざまな調理器具を収納しおえ、片付けが完ぺきに終了する。


「帰る準備はOKだよ。三人とも忘れものはない? 門がしまるから忘れてたら取りに戻れないからね」

「ええ、問題ないわ。もともと何も持ってきてないもの」

「わたしも大丈夫です。装備は肌身はなさず持ってます!」

「わたしも、大丈夫、です」

「そっか。じゃ、門がしまらない内に街へかえろう。近くにはハンターすらいないようだからね」


 僕がそう言うと、全員がかたまって歩く。

 魔力の探知によると、近くには魔物どころかハンターすらいない。


 今日はいい一日だった。


 一度も魔物におそわれず、近づいてこようとしたハンターは全員が大人しく帰ってくれた。


 おかげで邪魔されることなく料理はおわり、それなりの量の携帯食料が僕の収納魔法のなかに入ってる。


 これなら長旅だって安心して切りぬけられるだろう。

 門をくぐり、なんとかギリギリ街の中にはいる。


「うーん……ずっと食べられない料理ばかり作っていたから、お腹すいたね。みんなはどう?」

「当然、お腹がすいてるわよ。まだコンソメスープとやらも飲めてないしね」

「わたしもお腹すきました……昼食は食べたんですけどね。どうも美味しそうな匂いに囲まれていると、空腹を抑えられません」

「……!」


 アリシアやシャロンがお腹をさすって、ミュリエルが何度も頭をたてにふる。


 どうやら全員お腹がすいてるらしい。

 無理もないか。


 街につづく正門をぬけると、南の通りにむかって道はのびる。

 要するに商店街に近いということだ。


 そこから漂ってくるさまざまな料理の匂いやひとびとの活気が、これから夜食を摂るのに絶好だと語っていた。


「じゃあ、今日も今日とてどこかへ食べに行こうか。食べたいものとかある?」

「わたしは肉ね。あとスープ」

「それはコンソメスープの匂いをかいだから?」

「ええ。気分的にスープが飲みたい気分なの。肉はいつも通りね」

「わたしもお肉が食べたいです! ……あと、スープとケーキが」

「ケーキ! わたしも、食べたい、です!」

「シャロンとミュリエルは甘味かあ。その二つが揃ってる店はそう多くないよ?」

「量は少ないけど、前に食べにいった店にする? ケーキの種類ならかなりあるわよ。まあ、思いかえせば似たような味もおおかったけど」

「あー……前に散財したあの店か」


 あれから一度もいってないし、彼女たちがそれを望むならまあ悪くはない。


 悪くはないが……また、お金がけし飛ぶとおもうと素直に喜べないのはなんでだろう。


 やっぱりお金しかねえなあ、と言わざるおえない。


「シャロンとミュリエルはどうかな? まあ、ミュリエルは行ったことないかもしれないけど」

「えっと……どういう、お店でしょうか」

「ケーキがたくさんあるお店よ。その分、他の料理はあまり多くはないけどね」

「ケーキが……! わたしはそこで構いません! 今は肉よりデザートな気分です!」

「お、おお……そっかそっか」


 珍しくミュリエルが元気になった。

 やはり女性には甘味なのか。


「シャロンは? 肉がご所望ならほかの店のほうがいいと思うけど」

「いえ、わたしもお二人の意見に賛同します。極論なはなし、たくさん食べられればどこでも構いませんから!」

「はは……まあシャロンはそうだよね」

「なら決定ね。旅にでる前にまたあの店に寄れてよかったわ」

「楽しみです!」

「前にいった時はすごく食べましたからね。わたしのオススメは……」


 僕の意見などはなから聞く気がないのか、素早く目的地をきめた女性陣は、アリシアを先頭にどんどん前へすすむ。


 あのミュリエルさえ、今日は活気にあふれていた。


 いいけどね?

 別に。

 僕はどこでもいいというスタンスだったし。


 けど、好きだねえ、甘味。


「そこまでハマるほどかな? たしかに美味しかったけどさ」


 あわてて彼女たちのうしろを追う。


 僕のつぶやきは周りの声にかき消され、誰の返事もかえってこない。


 だが、目のまえで楽しそうに談笑する彼女たちを見れば、聞かずとも答えはわかった。


 前世でも人気だったし、無理もない、か。

 僕は親になったような気分でアリシア達をながめながら、ゆっくりと目的地へ向かった。

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