第59話 楽しい?野外調理

 日を跨いで翌日。

 僕たちは街の外にある草原エリアに足を運んだ。


 ここなら見晴らしもよく、僕の探知魔法以外の方法でも対象を認識できる。


 それに、森やダンジョン内で料理なんてしたらちょっと周りが怖いからね。

 こういう広々としたところの方が問題が少ない。


「よお——し! 準備はいいかな、ミュリエル」


 気合を入れて横にすわる彼女へ視線を向けると、僕と目があった彼女はこくりと小さく頷いた。


「大丈夫、です」

「じゃあ最初の料理を作ろうか。最初は簡単なものからはじめよう。さすがに肉を焼くくらいなら誰にでも出来るからね」


 そう言って僕が収納魔法の中から取り出したのは、まんまる大きな肉の塊。


 すでに並べた簡素なテーブルの上に肉を置き、包丁を手にするアリシア達に言った。


「手順はどう? そのまま焼いてもいいけど、一応、下ごしらえくらいはしておく?」

「遠慮しておくわ。初心者は余計なことをしない……ノア様がそう言ったんでしょ? ちゃんと言い付け通りに切るだけにしておくわ」

「賢明だね。じゃあ店で出てくるようなサイズに肉を切ってくれ。最初はアリシアとミュリエル。僕とシャロンはサラダを作ろうか」

「了解」

「わかり、ました」

「お任せください!」


 全員がOKのサインを出し、調理がはじまる。

 といっても作るのは簡単なステーキとサラダ。


 いくら彼女たちが普段から料理をしないと言っても、ただ肉を切って焼くくらいだから、失敗はしないだろうと思ってる。


「ねえミュリエル、大きさはこれくらいでいいかしら?」

「えっと……はい。それと同じサイズの肉をあと——くらい用意していただければ」

「わかったわ。火の準備はよろしくね」

「はい」


 うんうん。

 アリシア達の方は今のところ順調だ。


 まだはじまったばかりとはいえ、スムーズに肉を切れている。


「ノア様、野菜はこれくらいの大きさで構いませんか?」

「ん? どれどれ……うん、問題ないね。ちゃんとほとんどの野菜が一口サイズになってる。僕もあんまり偉そうには言えない立場だけど、シャロンは包丁を使うのが上手いね」

「剣士ですからね! 刃物の取り扱いは得意です!」

「そ、そっか」


 剣士だと包丁の扱いも上手くなるんだ……。

 はじめて知ったよその情報。

 ツッコミにくい。


「せっかくだし、向こうは量が多いからね。サラダだけだとすぐ終わっちゃうから、スープの準備もしておこう」

「スープですか?」

「手の込んだスープと言えば……コンソメかな」


 というか味噌はないからみそ汁は作れず、コーンがないからコーンスープも作れない。

 となると、僕の中ではもうコンソメくらいしか作るものがない。


 え? なら別にスープを作る必要はない?

 いやいや……食事には大事だよスープ。

 あるとないのとでは雲泥の差が出る。

 多分。


「コンソメスープ? はじめて聞くスープですね」

「そうなの? やっぱりこの世界にはないんだ、コンソメ」

「え?」

「あ、なんでもない。それよりシャロンはそのまま野菜を切ってくれ。サラダなんてどうせ盛り付けて終わりだからね」

「わかりました。ひたすら切ります!」

「頑張ってね~」


 危ない危ない。

 口がすべってヤバイ発言をぽろっとこぼしてしまった。


 僕が異世界転生したなんて話、現地にいる彼女たちに聞かせられるわけもない。


 僕自身、この世界に転生した証拠とか理由とか原因とか一切わからないんだから。

 無駄に彼女たちを混乱させたくない。


「……さて、サラダ用のドレッシングも必要かな? でもさすがにドレッシングとなると、作るのが大変そうだ……」


 いくら僕が前世の知識を持つとはいえ、自家製ドレッシングなど作ったことはない。


 一応、その手の話に詳しい友人から色々と話を聞かせてもらったことがあるから、知識だけならあるんだけど……ちょっと面倒くさいと思った。


 だが、食生活の充実は大切だ。

 娯楽のないこの世界において、それすら失ったら僕はどうする。


 面白味の欠けた世界で、どんどん精神がすり減りそう……。


「やっぱり大事だね、調味料や食文化の開拓は」


 ため息を漏らしながら、それでもやる気を頑張って出して、必要な材料を取り出す。


 まずは煮込みなどに時間がかかるスープからだ。

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