第57話 お買い物
「じゃあ、食事も終わったし二人一組で買い物に行こうか」
朝食を食べおえた僕たちは、お金を手に宿をでる。
役割分担としては、僕とアリシアが食料、シャロンとミュリエルが調理器具を買うことになった。
購入する食材を見てから調理器具を買った方がいい?
僕もそれは考えたけど、そこまで凝ったものを作る必要はない。
端的に言ってしまえば、焼く、煮込むことさえできればそれでいい。
なので、時間を無駄にしないようにグループを分けた。
「シャロン達には多くお金を持たせるけど、わざわざ無理に買う必要はないからね。適当に安い物を買っておけばいいよ」
「はい、わかっています。取り合えずフライパンと鍋、ですね」
「うん。その二つさえあれば大抵の料理は作れるからね。それと、全員分の食器なんかもお願い。僕たちは魔法が使えるから、くり返し洗って使える銀製だと嬉しいな」
「了解しました。待ち合わせはこちらの宿で問題ありませんね?」
「問題なし。ミュリエルが宿を変えてくれたおかげで、全員この宿に泊まってるしね。わざわざ知らない所で待ち合わせる必要はないよ」
そう言うと、シャロン達は頷いて店を探しに行った。
張り切る彼女たちの様子に苦笑を浮かべる僕へ、アリシアが言葉を投げる。
「いつまでも二人を見てないで、わたし達も目的地に向かうわよ」
「ああ、ごめん。旅がはじまる前の準備期間が、不思議と楽しいんだ」
「気持ちはよくわかるわ。これからどんな光景を見れるのか、それを考えるだけでわたしもワクワクしてくる。けど、二人が頑張るんだからリーダーのノア様が力を抜くのはなしよ?」
「当然。みんなのためにも過剰だと思えるくらいの食材を購入しないとね」
「ええ。そうなると、たくさんのお店を回らないと」
「肉に野菜、果物に飲み物……まあ、飲み物は最悪、水の魔法を使えば大丈夫だとして、問題はやっぱり食べ物か」
「いざって時のことを考えると、携帯食料もある程度は買っておいた方がいいでしょうね」
「携帯食料か……」
アリシアの言葉に心底嫌そうな表情を見せる僕。
それを見て、彼女は笑った。
「わたしだって嫌なのよ? 携帯食料。肉はひたすら硬くてしょっぱいうえ、パンは味が最悪。両方組み合わせると地獄ねまさに。口内の水分が一気に失われるあの感覚……魔物との戦闘以上に精神がすり減るわ」
「だよねえ……もう少しなんとかならないのかな」
「無理ね。収納中は時間が停止するノア様の魔法みたいなものは、ハンター全員が使えるわけじゃない。そうなると、食べ物に求められるのは日持ちの良さ。自然、味は二の次になる」
「世知辛いお仕事だよ、ハンターってやつは」
「同感ね。だからこそ、今回の旅はいい経験になると思うわ」
「いい経験?」
「そうでしょう? 今回の旅を通して、いかにわたし達が楽をできるかどうか、それがわかるのだから」
「つまり、今後の旅に活かせ、と」
「とくに食事ね。例えば、ノア様の魔法を使って前もって料理を作っておくとか」
「ああ……たしかにそれはいい考えだ。料理を作る必要がなければ、大幅に時間の短縮ができる」
「とは言っても、万が一のことを考えると、事前に作っておいた料理は保険でもっておいた方がいいでしょうね」
「要するに、僕らにとっての携帯食料か」
「そういうこと。でも、これならわざわざ携帯食料を食べる必要はなくなるし、遙かに旅が楽になるわ」
「……異論なし。それ用の食材も買うとして、荷物がたくさん増えるね」
「あとはシャロン達にそのことを伝えて、早速、明日にでも作らないとね。早くこの街を出るなら」
「了解。宿で作ると怒られるだろうから、料理は外で行うとしよう」
厨房を借りれれば話は早いが、無駄にお金を取られるのも嫌だ。
それに、料理内容は前世の知識を用いる予定だから、あまり人がいる場所では作りたくない。
けちっぽいと言われても、レシピは貴重な僕の財産になる。
盗まれる危険性を考慮すれば、中より外の方がよっぽど安全だ。
皮肉な話だけどね。
「なら、料理中は護衛を任せるわね」
「僕が?」
「ええ。わたし達は料理を作るのに忙しいから。それに、ノア様が守ってくれるなら安心できるわ」
「人を乗せるのがうまいねえ」
「あら? 本心よ」
「それはありがとう。誠心誠意、頑張ることにするよ」
近づいてくる人間の反応をたしかめる意味でも、僕が警戒した方がいい。
時折、彼女たちの様子を眺めながらアドバイスでも出せば十分だろう。
ミュリエルの活躍に期待する。
「というわけで、話も一段落ついたし、さあ、これからがわたし達の仕事よ、ノア様」
「だね。今日も今日とて人がたくさんいるだろうし、頑張って食材を選ぼうか」
気が付けば僕たちの眼前には、様々な露店が立ち並ぶ。
左右から男女の忙しない声と活気が飛び交い、多くの住民の姿が見える。
人の波に抗うという意味でも、今日は忙しそうだ。
僕はアリシアと視線をかわし、手を繋いでから人混みの中へ入っていくのだった。
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