第56話 旅の予定は料理から

 ミュリエルという新たな仲間が加わった翌日。

 僕たち四人は、泊まってる宿の一階、食堂にて集まっていた。


「おはようみんな。朝食を食べながら今後の予定を話てもいいかな」


 早速と言わんばかりに僕が話を切りだす。


「おはようノア様。もちろん構わないわよ」

「おはようございますノア様! 今後の予定、楽しみです!」

「おはよう、ございます……」


 アリシア、シャロン、ミュリエルの三人がそれぞれ答え、僕は満面の笑みを浮かべた。


「ありがとうみんな。それじゃあ今後のついて話し合おうか。といっても、決めることはただ一つ、旅に関する内容だ。話し合う必要はあるけど、すでに目的地は決めておいた」

「どこに行く予定なの?」

「いい質問だねアリシアくん」

「くん……?」

「僕らが次に向かう場所は、ここより西北、同じように森に囲まれた街だ」

「西北にある森に囲まれた街……」

「クリミア?」


 シャロンが呟き、隣に座るミュリエルが結論をだす。

 ナイスコンビネーションだ。


「正解だよミュリエル。そう、僕らが次に向かうべきはクリミアの街! 結構大きくていろいろと発展してるらしい」

「へえ、クリミアの街ね……懐かしいわ」

「アリシアは行ったことがあるのかい?」

「ええ。二年ほど前に一度だけ。たしかにこの街よりは広くてお店もたくさんあったわ。記憶によると、ハンター協会もあったはず」

「うんうん、情報通りだね。それ以外に何か気になるようなことはあった?」

「気になるようなこと? ……特には。いくらそれなりに広大な土地を持ってる街とはいえ、そこまで目立つものはなかったわよ」

「なるほど……ありがとうアリシア」


 彼女の言葉を聞いて、一応はホッとする。


 というのも、クリミアの街とは前世、この世界がまだゲームだった頃に登場する街の名前なのだ。

 世界観や設定資料ではない。


 実際に、テキストに出てくる名前だ。

 それもゲームの中盤から終盤にかけての間に。


「何かクリミアの街に関して気になることでも?」

「……いや、ぜんぜん。自分たちが次に訪れる街がどんな所なのか気になっただけだよ」

「そう?」

「そうそう」


 鋭いアリシアのツッコミを適当に誤魔化し、僕は話を続ける。


「それで、近日中にはこの街を出る予定だけど、何か異論や質問などはあるかな?」

「わたしはないわ。用事もないし、予定もない。ノア様にしたがうだけよ」

「わたしも問題ありません! しいて言うなら、クリミアの街に移動する際、食料などは大丈夫なのかどうか、それくらいですかね」

「シャロンの疑問、というか不安はもっともだ。しかし問題ないと答えておこう。先日、君たちが狩りまくってくれた魔物の魔石を換金しただろう? あの時のお金がたくさんあるからね。それを使って食料などを購入しようと思う。持ち運びは僕の魔法でおこなうから大丈夫だよ。好きに選ぶといい」

「それは旅先で料理を作る、という意味も含めるのかしら」

「作れる人がいるなら調理道具も構わないよ」

「「「……」」」


 僕の言葉に、僕以外の全員の視線が交差する。

 言葉などなくてもわかる。

 誰か料理作れる人はいる? と語っていた。


 だが、その問いに応えられる者はいない。

 これまでの行動を振りかえって、毎日外食や食堂で食べていたことが答えである。


「どうやら、誰も料理は作れないようだね……」

「残念だわ。旅先で温かい食事を食べられると思ったのに」

「すみません……なにぶん、戦うことしか頭になくて……」

「び、貧乏料理なら作れるんですが……さすがに皆さんにそれを振る舞うのはちょっと……」

「ミュリエルは一応、料理じたいはできるの?」

「簡単なものなら、多分」


 ふむふむ。


「なら、せっかくだしチャレンジしてみようよ」

「え? わ、わたしがですか?」

「うん。安心してくれ。不安なら僕も手伝うからさ」

「ノアさんが!?」

「ふふ、これでも少しくらいは役に……立つかもしれない。少なくともまったくの素人じゃないよ」


 学校の授業とかで少しは習ったし、ごくごくたまにアニメや漫画の影響で簡素な料理を作ることはあった。


 久しぶりだが補佐くらいはできるだろう。


「ノア様と、ミュリエルが料理……?」

「う、羨ましい!」

「アリシア? シャロン?」


 急に、こちらの様子を見ては二人がブツブツと呟きはじめ、


「だったらわたしもやるわ! 自信なんて皆無だけどやらせてちょうだい!」

「わ、わたしも是非! アリシアさんと同じく自信はありませんが!」


 といきなりやる気を見せた。

 どういう心境の変化だろうか?


「アリシアとシャロンもやるの? 自信ないのに?」

「平気よ。昔からやればできる子ね、と言われてたもの」

「努力は得意です! 頑張ります!」


 前半のアリシアはともかく、後半のシャロンは完全に精神論じゃん。


 不安しかないが、ここで彼女たちのやる気を否定するのも嫌な話だ。

 ……しょうがない。


 当初の予定より多くの食材を買い込んでおこう。


「OK。二人の意思は尊重しよう。悪いけど、ミュリエルは二人の指導なんかをお願いできるかな?」

「し、指導ですか? わたしが、お二人に?」

「ごめんね。面倒だとは思うけど、みんなで作った方が料理もおいしくなると思うんだ」

「な、なるほど……わかり、ました。頑張ります!」

「ほどほどにね。役に立たないと思ったら、遠慮なく言ってくれ」


 そのときは無理やりにでも止めるから、とは言わず、ニッコリと僕は笑うのだった。

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