第54話 正式加入
「え!? ミュリエルさんが、僕たちのパーティーに!? ずいぶんと唐突だね……何か心境の変化でも?」
「ええ、まあ。そこから先は彼女自身がお話します。さあ、ミュリエル」
「う、うん! ありがとう、シャロン」
シャロンに促される形で、今度は彼女が喋りだす。
「わたし、その……ずっと一人で活動してました。けど、一人だと、ハンターとして限界があります」
「そうだね。ハンターに求められる能力は、基本的に戦闘。支援魔法しか使えないとなると、できる仕事は限られる」
主に採取系の依頼をこなしたとわかる。
「はい、その通りです。もともとが裕福な家庭の生まれではなく、報酬の安い依頼ばかりをこなして生きる日々は、大変でした。そんな折、久しぶりにシャロンを見つけて、パーティーを組みました」
昨日の件だね。
「わたし自身、パーティーを組むのは久しぶりで、でも、たくさんの報酬を手に入れました。ノアさん達が守ってくれたおかげで、無事、街に帰ることもできた……そして、一晩じっくり考えて、ノアさん達と一緒にいたい——そう思うようになりました!」
「僕たちと?」
「はい。ノアさんからしたら、わたしみたいな面倒な女は嫌でしょうが、お願いします! お金だけじゃない、シャロンやお二人の人柄を見て、この人たちしかいないと、そう思いました。どうか、わたしをパーティーに入れてください! 雑用でもなんでもやりますので!」
まるで土下座をする勢いで頭をさげるミュリエル。
友達がここまで必死に何かをお願いする姿は珍しいのか、隣にすわるシャロンも彼女を見ながら驚いていた。
「……なるほどね。パーティーへの加入か」
正直、ありがたい話だ。
彼女にはアリシアやシャロンが持っていない稀有な才能がある。
支援魔法の有無とは、
僕でも同じことはできるが、なんでもかんでも僕が手伝うと仲間たちの成長には繋がらない。
治癒魔法も使えるようだし、ぶっちゃけ諸手を上げて喜びたい提案だ。
問題があるとすれば……。
「パーティーへの加入自体は、僕はいいと思うよ」
「本当ですか!?」
「うん。ただし、問題があることは本人が一番よく理解してるだろう?」
「問題……」
「そもそもミュリエルさんは、男性が苦手だと聞く。けど僕と一緒に冒険するということは、大半の時間を僕とすごすということ。それは問題ないと割りきれるの?」
「あ……そのことですか」
「?」
シャロンが苦笑する。
何か、僕の言葉は間違ってたのだろうか。
「実は、その話……」
「誤解、なんです」
シャロンの言葉にミュリエルがつづく。
「誤解?」
「ええ。わたしも昨日知ったばかりなんですが、どうやらミュリエルは厳密にいうと、男性が苦手なわけではないらしいです」
「え、そうなの? でも僕とは結構距離あったよね? 今もあまり近づかないようにしてるし」
「それは……その……緊張、しちゃって」
「き、緊張? まさか……異性に近づくと恥ずかしいとか、そういう?」
僕が訊ねると、ミュリエルはゆっくり頷いた。
ずっとシャロンの言葉を信じて距離を置いてたのに、それが思春期特有のやつだとは……。
「すみませんノア様、わたしが誤解させるようなことを言ったばかりに」
「違う! わたしが、誤解を解かなかったから……」
「ううん、いいよ別に。どちらにせよ得意じゃないという意味なら同じだから。けど、そっか、一応大丈夫なんだ、異性が」
「もちろん、怖いという感情がないといえば嘘になります。それでもパーティーに加入したいと思ったのは、ノア様なら信用できると思ったからでしょうね」
「そこまで信用してくれると嬉しいね。だとしたら僕は問題ないよ。一緒にパーティーを組んでくれると助かるし」
「じゃあ!」
「でも、まだ問題は残ってる」
嬉しそうに表情を崩した二人を見て、しかし僕はそれを制した。
ちらりと背後のベッドを一瞥してから、
「まだ確認を取るべき相手がいるだろう?」
「それは……」
「うん、アリシアのこと。彼女がミュリエルの加入を認めないと言ったなら、話はそこで終了。僕は全員の同意がないかぎり、どんな相手の加入も認めない。だから次は、彼女の説得を頑張ることだね」
「アリシアさんの説得……ミュリエル! 頑張りましょう! わたしが一緒にお願いします。二人で真摯に頼みこめば、アリシアさんは認めてくれますよ!」
「シャロン……う、うん! 頑張る!」
「というわけで、話は彼女が起きてから——」
「——いいわよ、わたしは」
僕の言葉を遮って、背後から声が聞こえた。
アリシアだ。
見ると、彼女が上体を起こしてこちらを見ていた。
「……なんだ、起きてたんだ」
「今さっきね。部屋のなかで誰かが会話してたら、さすがに目も覚めるわ」
「それは申し訳ない。部屋を移動すべきだったかな」
「構わないわ。ここはノア様の部屋でしょ。わたしが文句を言えるはずがない。……それに、内容を聞けてよかったと思ったし」
彼女は毛布を体に巻きつけて僕の隣に座った。
そのまま目の前のミュリエルを見つめ、
「それで? わたしは許可を出したわよ? これで何の問題もないと思うけど……あなたは、パーティーに入るの?」
と言った。
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