第53話 相談事

 ……。

 コンコン。

 …………ん。


「んん……ん」


 扉がノックされた音で目が覚める。

 ぼやけた視界の先には茶色い天井が見えた。

 上体を起こし、周囲の確認をする。


 すると、


「ノア様、起きていらっしゃいますか?」


 というシャロンの声が聞こえた。


「シャロン? どうしたの、こんな時間に」


 窓の外を確認すると、まだ陽がのぼってそんなに時間が経っているようには見えなかった。


 おそらく昼より前だろう。


 おかしいのは僕の方だが、しかし昨日の今日では仕方ないといえる。


「ノア様もアリシアさんもお疲れとは思いますが、お話があります。取り合えずお部屋に入っても?」

「え? 話……? いや、それより……」


 ちらりと真横で眠るアリシアを見下ろした。


 現在、彼女は裸のままベッドで寝ている。

 僕らの声もとどかず気持ちよさそうだ。


 こんな状態で部屋に人を通すのも変な話だとは思うが……まあ相手はシャロンだし問題ないか。


「ダメ、でしょうか?」

「……ううん、入っていいよ。ただ、アリシアの方はまだ寝てるから静かにしてくれると助かるかな」

「わかりました」


 シャロンから了承の言葉が返ってきたので、僕はベッドから下りるとすぐに部屋の扉の鍵をあけた。


 ちなみに僕はちゃんと服を着てる。


 ズボンのみだが、今さらシャロンに上半身を見られたところで別に構わない。


 前世の記憶がある分、上半身くらいなら平気でさらせる。

 が、


「失礼します」

「失礼、します……」


 僕は部屋に入ってきた二人の姿を見て、早くも自分の軽率な考えを後悔するのだった。


「あ、あれ? シャロンだけじゃなく、ミュリエルさんもいたの?」


 なんとシャロンに続いてミュリエルまで僕の部屋に入ってきた。


 ちらちらと赤面した顔で僕の体を見る。


「はわ、はわわ! 男性の、ノアさんのお体……!」

「あ……すみません、伝え忘れてましたね。お話があると言うのはミュリエルなんです。薄々そうなるとは思ってましたが、少々、刺激がつよい格好で……」

「ははは……ごめん。すぐに服を着るよ」


 ひとこと謝って僕はベッドの近くに放置されていたシャツを着る。


 シャツを着るまでの間、やたらとミュリエルの視線が刺さっていたが、無視だ無視。

 気にしたら負けだと思ってる。


「これでよし。改めておはよう二人とも。昨日は大変だったね。まだ休んでなくていいの?」


 全員がテーブル近くの椅子に腰をおろしたところで、ちゃんとした会話がはじまる。


「はい。わたしは元からそれなりに体力がある方ですから。昨日は早く寝ましたし、体調に関しては何ら問題ありません!」

「元気だねえ。誰よりも動いて苦しかったろうに」

「それが前衛を支える剣士の役目ですから」

「ミュリエルさんは? 怖い思いをしたんだし、しばらくは休んでていいと思うよ」

「い、いえ……今回は、シャロンと相談して、その……ノアさんに、お話したいことが」

「そういえば部屋にはいる前に言ってたね、話したいことがあるって。昨日わたした報酬に関する話かな?」

「違います。報酬はむしろ多すぎるとミュリエルが困ってましたよ。自分は戦闘に参加してないし、ただ魔法を付与してただけ——だと」

「あれで多い? ちゃんと役割に応じた報酬を払ったつもりだったけど……じゃあ、僕に話って? 何かききたいことでも? 多少なら知識はあると思うけど」


 ただ、あくまで僕の知識は前世のゲームのものだ。

 この世界独特の知識にはまだまだ疎いと思う。


 実際、ダンジョンとかトラップとか全然知らなかったしね。


「それも違います。わたし達は知識を求めてるわけじゃありませんから」

「知識も違う? そうなると……」

「簡単な話ですよノア様。ミュリエルが——わたし達のパーティーに入りたいと、ただそれだけのお話です」

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