第51話 ダメったらダメ!
「ただいまシャロン、ミュリエル。随分と待たせちゃったかな」
買い物を済ませた僕とアリシアが、ミュリエルが泊まってる宿の一室、彼女の部屋の扉をノックすると、ドアが開いてシャロンが顔を覗かせる。
「お疲れ様ですノア様、アリシアさん。わたし達はずっと楽しく談笑してたので、それほど待ったということもありません。むしろ、面倒なことを押しつけて申し訳ありませんでした」
言いながら僕たちはシャロンの案内で部屋の中に招かれる。
ベッドには横になったミュリエルがいた。
「そこまで面倒じゃなかったよ。ただ、魔石の量が多くてね。いくら小型の魔物の物ばかりとはいえ、換金に時間がかかっちゃった。……代わりに、ほら、二人へお土産。お腹すいてるだろう?」
「これは……食べ物ですか!」
「そ。南のほうで二人の食べ物を買ってきたんだ。もちろん費用は僕の懐から出す。遠慮なく食べてくれ」
「ありがとうございますノア様! ミュリエルも一緒に食べましょう!」
「う、うん」
「?」
何やらミュリエルが僕の方を見つめているが、視線を合わせると途端に逸らされてしまう。
ほんの一瞬だけ合った瞳の中には、何やら複雑な感情がいり乱れているように見えたが……。
うーん、わからん。
元々、相手の心を読む能力は低いというのが僕の自己分析。
わからないことをいつまでも気にしてもしょうがない。
首を傾げたあと、持っていた袋をシャロンに渡す。
「あれ……? あまり量はありませんね。四人で分けるとなると、一人あたり……」
「ああ、それはシャロンとミュリエルの分だよ。僕とアリシアは他の店で食事を摂る予定なんだ」
「——え? お二人だけ、ですか?」
「うん。二人は今日ずいぶんと頑張ったからね。これ以上の労働……ではないけど、体力の消費は避けたほうがいい。だから余裕のある僕とアリシアは二人で食事を摂るよ」
「そんな! でしたら私も——」
「ダメ。どうせ体力ならあり余ってる、とか言うつもりだろ? この中で
「め、命令……」
食べ物の入った袋を持ちながら、露骨にガッカリするシャロン。
だが、哀しみに暮れる彼女に声をかけたりはしない。
これもリーダーとしての役目だと自らを律する。
「はい、これは飲みもの。余裕をもってたくさん買ったから、どんどん飲んでね」
アリシアもとくに命令の件には触れず、自分が持ってた飲みものをいくつかテーブルの上に並べた。
「というわけで僕らはこれで失礼するよ。……ああ、そうそう、シャロンの報酬は後で渡すとして、先にミュリエルの報酬を渡しておくね。これが今日のダンジョン攻略での分けまえ。足りないと思ったら言ってくれ。一応、交渉には応じるよ」
金貨や銀貨の入った袋をテーブルに置いて、僕はアリシアと共に部屋の扉を開ける。
何やらシャロンが言いたいことがあるみたいな顔をしていたが無視。
口を開きかけたミュリエルの姿を最後に、扉は閉まるのだった。
▼
「さて、それじゃあ僕らは二人でお店でも探そうか」
廊下にでて真っ先にやるべきことは、やはりそこだろう。
しかし、
「それには及ばないわ。買い物してる最中によさそうな店を見つけたの。今日はそこでたべましょう」
「よさそうな店?」
「ええ。あくまで店の外観や内装くらいしか見れなかったけど、あのあたりで探せば十分に他の店も見つかると思う。だから、どうかしら」
「ふむ……うん、時間ももったいないし、アリシアがそう言うなら僕は問題ないよ」
「ありがとう。実際に入るかどうかはメニューを見たあとで決めてもいいしね」
「うん。じゃあ行こうか。こうして二人で食事をするのは久しぶりだ」
「シャロンが仲間になってからは、いっつも三人で食べてたからね」
肩を並べあって歩く。
宿を出て、光に照らされた夜道を通った。
「けど、アリシアと出会ってまだそこまで日は経っていないのに、随分と昔のことのように思える」
「たしかに。何故かしらね。わたしもずっと前からノア様と一緒にいるような感じがするの」
「それだけ仲良くなれたってことかな」
「あら? まだまだ仲良くなれるわよ。少なくとも今日は、わたしが満足するまで離してあげない」
「それは……食事に関して、だよね?」
「ふふ、どうかしらね」
南にある商店街へ向けて歩きながら、僕は背筋に何やら不穏な気配を感じた。
その正体を僕はよく知ってる。
これまで、何度も味わった気配なのだから。
「……お手柔らかに、お願いするよ」
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一読ありがとうございます!
明日の金曜日、新作となる三作目の小説を、
朝の7時頃に投稿します。
こちらの毎日投稿はいまのところ続きますので、
ご安心ください!
新作もよろしくお願い致します。
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