第48話 心境の変化

「ねえ、ノア様」


 ダンジョン内を歩いていると、隣に並んだアリシアが声をかけてきた。


「なに?」

「さっきミュリエルを助けた際に使った魔法……あれ、何の魔法なの?」

「ミュリエルを助けた際に使った魔法? ……ああ、あれか。あれは火属性の魔法だよ」

「やっぱり。わたしが前にオルトロスに使った魔法と同じタイプかしら」

「そうだね。規模はアリシアの方が大きかったけど、魔力操作の技術を高めるとあんな風に小規模でかつ高威力の魔法も使えるんだ」

「どうやって?」

「原理は簡単だ。火属性の魔法をひたすら圧縮する。圧縮と固定、これがある程度できればアリシアも使えるようになるよ」

「圧縮と固定……それを前方方向へ放ったのが、あの魔法の正体ね」

「そういうこと」


 いわゆる光線と呼ばれるものだ。

 通常の火属性魔法を使うより圧倒的な殺傷力を得られる。


 だが、反面、魔力操作がかなり難しくなる。


「炎に変換した魔力を圧縮し続け、それを固定。固定化した魔法を放出……言葉にすると簡単ね」

「言葉にするだけならね。多分、今のアリシアじゃまだ難しいと思うよ」

「試しにやってみていいかしら」

「また今度ね」

「ええ。その時はたっぷり練習に付き合ってもらうわ」


 そんなこんなで話は終了。

 人数が増えたことで魔物を誘き寄せしやすくなったのか、帰りは何体もの魔物が現れた。


 けど全ての討伐を僕が行ったことにより、ダンジョンを出るまでの間、誰も傷つくことなく順調に帰路に着く。


 何故かやたら背後から再び視線を感じたが、二度目になると慣れたもの。


 僕は特に気にせずミュリエルと思われる視線を無視した。




 ▼




「ただいま、と」


 アリシア、シャロン、ミュリエルと共に街まで戻ってくる。

 ダンジョンを出ると、途端に魔物が少なくなって助かった。


「はあ……やっと帰ってこれたわね。疲れたわ」

「お疲れ様。シャロンも大変だったろう?」

「いえ、わたしは体力だけが取り柄ですから。むしろわたしよりミュリエルの方が大変でした」

「そうだったね。ミュリエルはもう帰っていいよ。ハンター協会には僕とアリシアが行く。シャロンを付けるから早退するといい」

「え? いや……」

「平気平気。ダンジョンに行っただけで依頼を受けたわけでもないし。それに今はパーティーだろう? パーティーメンバーをいたわるのもリーダーとしての仕事。それに、ハンター協会へ行くといっても、やることは魔石や素材の換金くらいだからね。正直、僕一人でも問題ない」

「あら、わたしも必要ないと? せっかく、寂しいノア様に同行してあげようと思ったのに」

「あはは、冗談だよ冗談。一人くらいはいてくれると嬉しいな。とはいえシャロンもミュリエルを担いでここまで運んでくれたし、友人だからね。悪いけどアリシアにはもうひと踏ん張りしてもらうよ」

「パーティーメンバー使いの荒い人ね」


 こらこら。

 あまり誤解を招くようなことを言わないでほしい。

 周りの人に聞かれたら、僕が誤解されるじゃないか。


「すみま、せん」


 僕の提案を素直に受け入れてくれたのか、ミュリエルはか細い声でお礼を述べた。


「ううん。むしろ危険な目に遭わせてごめん。また機会があったら一緒にパーティーを組もう。次は僕やシャロンが必ず君を守るから」

「っ——!」

「?」


 どうしたんだろう。

 急に、顔をシャロンの背中に埋めたミュリエル。

 以降、僕と目を合わせてくれない。


 まあ元々、彼女は男性が苦手ということで、正面きって顔を合わせてはくれなかったから、僕は気にしない。


 改めて、


「それじゃあ、行こうかアリシア」

「ええ。また後でねシャロン」

「はい。また後で。ありがとうございました、ノア様」


 僕はアリシアと共にハンター協会を目指す。

 シャロン達もミュリエルが泊まってる宿の方へ向かった。

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