第47話 光がもたらされる
ミュリエルの眼前を、眩い光の線が走った。
光は襲いかかる魔物を呑み込み、薄暗い洞窟内を照らしながら奥へと消えた。
「……」
ミュリエルはその光景を捉え、無言で光が走ったと思われる方へ視線を向ける。
すると、洞窟の奥から三人ほどの影が見えた。
強化系の魔法を使って視力が上がってるからこそわかる。
あれは——、
「しゃ、ろん……?」
自分が心の底から信頼する友人たちだった。
驚くほどの速度でミュリエルの前に到着する。
「ミュリエル! 平気? ……ああ、こんなにボロボロになって」
汗まみれのシャロンは、顔中に浮かぶ汗を拭うことすらせずにミュリエルの下へと急いだ。
心底心配そうな表情を浮かべて彼女の状態を確認する。
「う、うん。平気、だよ。ごめんね……心配かけて」
「ミュリエルは悪くありません! ダンジョンへ行こうと誘ったのはわたしなんですから。むしろわたしの方こそすみません……まさか、こんなことになるとは」
傷ついた友の姿を見て、シャロンが顔を伏せる。
自分とは違い、援護に徹するしかない彼女を危険な目に遭わせるとは、と悔いているようだった。
「報酬が大きいと付いて行ったのはわたし。シャロンが自分を責めるのは、違う。罠にかかったのもわたしのせいだし、お願いだから気にしないで」
「ミュリエル……」
「そうそう。反省会は後にしよう。今は犠牲者が出なくてよかったと喜ぶべきだ。今後はあまり離れないように注意しよう」
空気を読んでか、途中でノアが彼女たちの話に割り込む。
いつまでもこんな所に留まっていると危険だと判断したのだ。
魔力が底をついてるミュリエルに代わって、まだ完全に完治していない彼女の傷を治す。
「あ、ありがとう、ございます」
淡い光に包まれる自分を見下ろしながら、ぼそぼそと彼女はお礼を告げた。
それに対してノアは笑みを浮かべると、
「どういたしまして。無事で何よりだ」
と笑う。
みるみる内にミュリエルの傷は治り、ようやく完全なる復帰となった。
腰を下ろしていた分、体力も回復したのか歩けるようになる。
とはいえ、まだまだ失った魔力は戻らない。
帰りはシャロンに担いでいってもらおうとノアが提案する。
「さて、そろそろこの場を離れましょうノア様。何やら遠くの方から魔物の気配が」
「みたいだね。ダンジョンを攻略しきれないのは残念だけど、そこまで強い個体がいるわけでもないし、またいつか来れればいいや」
シャロンがミュリエルを背負い、それを見届けたあと、
「というわけで全員、街へ帰還します。魔物が出たら適当に僕が倒すから、みんなは生き抜くことだけに注意してくれ」
ノアが彼女たちを先導する。
▼
「……」
シャロンに背負われる形で、ミュリエルは洞窟内を移動する。
無言で前方を歩くノアを見つめながら、彼女は思った。
「(ノアさんが、わたしを助けてくれた)」
と。
彼らが来る直前、眼前に放たれた魔法。
あれは、間違いなくノアが繰り出した魔法だとミュリエルは確信を持っていた。
シャロンにあのような攻撃系の魔法は使えない。
アリシアならば使うことは難しくなさそうだが、彼女はミュリエルの所に来る際、ノアに担がれていた。
あの状態で狙って魔法を当てたのだしたら、驚嘆に値する。
ならばと、彼女は確信したのだ。
アリシアを抱き締めながら、強化魔法による加速を加味し、その上で更に魔法を使ったノア。
そして、シャロンから聞かされた話を含めて、彼女の中でノアという人物の評価が並々ならぬ速度で上昇する。
それはシャロンの知り合いだからなのか、優しくされ、しかも助けられたからなのか。
まだ彼女はわからなかった。
しかし、不思議とノアを見ると心が安心する。
絶対的な強者が仲間だと思うと、ホッと胸を撫で下ろせる。
洞窟内にいるというのに、心からリラックスできた。
そもそも、彼女ははじめからノアのことが嫌いじゃなかった。
シャロン達や本人すら気をつかってくれていたようだが、違うのだ。
根本的に違う。
ミュリエルは男性が嫌いというより、むしろ——。
「ミュリエル? どうしました、ジッと前ばかり見て。別に寝ててもいいですよ」
思考の途中、彼女を抱えるシャロンが声をかけた。
表情からいたわりの感情が見える。
あわてて思考を止めたミュリエルは、友人を心配させないように平然とした声で言った。
「ううん、何も。ただ、あんなことがあったからすぐには寝れなくて……」
「ああ……たしかに。支援魔法の使い手がこんな所で魔物に襲われたら、身構えるなっていう方が難しいですね。すみません。わたしの配慮が足りてませんでした」
「謝らないで。シャロンは悪くない。それに、ちゃんとこうして助けにきてくれた。シャロンがいてくれるから、ちゃんとゆっくりできてるよ?」
「本当ですか? それならよかったです。何かあったら遠慮しないで言ってくださいね。ノア様がいれば大抵のことはなんとかなりますから」
「……うん、わかった」
太陽のように笑うシャロンを見て、同じく微かに笑うミュリエル。
結局、中途半端で終わった思考の続きは、——考えるのを止めた。
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