第39話 新入り、仮加入

 ハンター協会にある掲示板の方から、シャロンと修道女のような服を着た女性が歩いてくる。


 女性は、美しい桃色の髪を伸ばした女性だ。

 外見年齢だけを見ると、恐らく僕やアリシア、シャロン達と同い年くらいだろう。

 どこか暗そうに見える真顔のまま、僕たちの前に立った。


「お待たせしました。依頼の確認をしてきたところ、よい依頼は見つからず、戻ってきました」


 シャロンが後ろに並ぶ少女のことなどさも当然のように話す。

 だが、僕とアリシアは当然、彼女のことを訊ねる。


「それより、その……後ろの彼女は誰?」


 僕とアリシアの視線を受けた桃色髪の少女は、僅かに体を隠すようにシャロンの背中へ近づく。


「彼女ですか? 彼女はミュリエル。わたしがまだソロでハンター活動していた頃によくパーティーを組んでいた現役のハンターですよ」

「ハンター……」


 彼女が、ハンター?

 修道女みたいな外見に似合わず、何か強力な魔法でも使えるのかと思ったが、違う。


 何もハンターとは僕やアリシアみたいに攻撃魔法をバンバン繰り出したり、シャロンみたいに剣を振るうだけが仕事じゃない。

 勇者のパーティーにも彼女と似た服装の女性がいた。

 彼女と同じなら、恐らく彼女が得意とするのは——支援魔法。


 攻撃するのではなく、他者、あるいは自分自身を強化、癒す魔法に秀でた魔術師だろう。

 パーティーに一人は欠かせない人材だ。


「ほら、挨拶してくださいミュリエル。この方々は、わたしのパーティーメンバーです」

「……ミュリエル。よろしく、お願いします」


 ぼそぼそとシャロンに比べて小さい声で彼女は挨拶してくれた。

 凄く、根暗なタイプなのかな?

 取り合えず僕たちも挨拶を返す。


「よろしく、ミュリエルさん。僕はノア。魔術師だ」

「よろしく。アリシアよ」


 アリシアはあんまり興味を示していないのか、僕の背後で明後日の方角を見ていた。


「それで、どうして急に彼女を——ミュリエルさんを連れてきたの?」

「それは、今回のダンジョン探索に彼女も一緒に連れて行ってほしいからです」

「え、彼女を……?」

「はい。こんな話をするのもなんですが、彼女はわたしと同じくソロのハンターです。攻撃を得意とする剣士でも、魔術師でもないのに」

「普通に、他の人とパーティーを組めばいいんじゃ……支援系の魔法を使うんだろう? 服装から察するに」


 再び、僕の視線がシャロンの後ろに隠れるミュリエルへ向いた。

 すると、なぜか彼女は更にシャロンの背中へ逃げた。


 僕が首を傾げるが、答えを教えてくれたのはシャロンだった。


「それが……彼女、男性が苦手でして……」

「男性が苦手」

「前に、一緒にパーティーを組んだハンターがいたんですが、その内の一人が、彼女にその……ちょっかいをかけまして、ほとんど無理やり襲われかけたんです」

「え」


 なにその話。

 気軽に聞いていいものなの?


 だが、僕の心配とは裏腹に、ミュリエルさんはシャロンを止めないし、シャロンもまた話を止めない。


「その時は他のハンターの方とわたしがいたので、何かされるようなことはありませんでしたが、以降、彼女は他のハンター、というより男性と一緒に外へ行くのが怖くなりました」

「そう、だろうね」


 無理もない。

 異性に、屈強な男に襲われる女性の苦しみなど、男性の僕からしたら全て理解できるとは言えないが、同情するに値するほど酷い話だ。


「しかし、彼女の家は決して裕福ではありません。わたしもですが、そういうハンターはひたすら魔物討伐などをしてお金を稼ぐ必要があります。ただ、彼女の場合は他の男性とパーティーは組めません。そして、ハンターには男性が多くいます」


 およそ八割くらいが男性じゃないかな?

 周りを見渡してもほとんど男性ばかりだ。

 中には一人や二人くらい女性のハンターもいるが、やはり少ない。


「必然的に彼女が組める機会は少なく、やれることは限られます。しかし、そんな活動では自信の食費や宿代すら稼ぐのに困る始末。なので、どうか、わたしの勝手な要望ですみませんが、彼女も一緒に連れて行くのはダメでしょうか?」


 バッと頭を下げるシャロン。

 そんな彼女を見て、後ろに並ぶミュリエルさんもゆっくりと頭を下げた。

 それを見せられて僕に断ることができるとでも?

 一応、後ろにいるアリシアには確認をとっておく。


「だそうだけど、アリシアはどう? 僕は構わない。支援魔法が使える人は早々いないからね。彼女が入ってくれると二人の戦闘がだいぶ安定すると思う」

「わたしはノア様の意見に従うわ。仮に、仮に相手が男なら拒否してたかもしれないけど、同性なら問題ない。それに、男に襲われるなんて話を聞かされたら、ね」

「ということで、僕らは何の問題もないよシャロン」

「ノア様! アリシアさん! ありがとうございます!!」

「ありがとう、ございます」


 よほどうれしかったのか、シャロンが元気いっぱいに上げた頭を再び下げる。

 ミュリエルさんもまたそれに倣う。


「けどいいの? 僕は一応、男なんだけど」

「ノア様が彼女を襲う理由はないでしょう? わたしやアリシアさんがいるのに」

「そりゃあそうだけど、割り切れる?」


 ミュリエルさんの方を見ると、彼女はこくりと小さく頷いた。

 どうやら、かなりシャロンのことを信用してるようだな。

 僕としては問題ないならなんでもいい。


「じゃあ、今回は四人でいこうか。ちなみにはじめに言っておくけど、ダンジョンに入ったら僕は手伝わないよ、戦闘」

「ノア様はとても強く、基本的に戦闘はこちらに任せて解体などをしてくれます。なので、道中はともかくダンジョンに着いてからはわたし達で戦闘します。大丈夫ですか、ミュリエル」

「ん。平気、です」


 ぼそぼそと言って、彼女は了承してくれる。

 これで全ての問題は片付いた。


 早速、僕は彼女たちを連れて外を目指す。

 念の為、探知魔法は逐一かけて、勇者などがいないかどうかの確認を怠らない。


 支援魔法使いが増えて、彼女たちの戦闘が楽しみになったな。

 どう、影響を及ぼしてくれるだろう。

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