第38話 シャロンの知り合い
翌日。
一階の食堂に集まった僕たちは、テーブルを囲んで本日の予定を立てる。
「おはようアリシア、シャロン」
「おはよう、ノア様、シャロン」
「おはようございます、ノア様、アリシアさん」
三者三様、僅かに個性の出る挨拶を済ませる。
僕は普通に。
アリシアはクールに。
シャロンは恭しく。
もはや見慣れた光景だ。
しかし、こうして見慣れた光景に気付くと、何故かやたらクスリと笑いたくなる。
馬鹿にしてるとかそういう意味ではなく、なんか嬉しいのだ。
本当の仲間って感じで。
「今日は前に行ったダンジョンへ行くのよね? ハンター協会には寄ってくの?」
注文を済ませたアリシアが、早速と言わんばかりに訊ねる。
「うん、一応。もしかすると、ダンジョンへ行くより効率的に金を稼げる依頼がないとは限らないだろう?」
「流石ノア様! 時間を無駄にしないお考え、ご立派です!」
「そんなんじゃないよ。ただ、もったいないってだけ」
言ってしまえば貧乏性みたいなもんさ。
それに、事実、二人のおかげで僕の懐は随分とげっそりしたからねえ。
少しでも足しになる依頼は探しておきたい。
昨日話した、旅のためにも。
「何かいい依頼があるといいわね」
アリシアはダンジョンでも依頼でもどっちでもいいのか、僕の意見にさほど興味を示さない。
届いた飲み物を口に含みながら、一人、何か考えてる。
「まあ、依頼の方は念のため。多分、ほぼほぼダンジョンに向かうと思うから、そのつもりでいてくれよ」
「了解」
答えて、運ばれてきた料理を食べはじめる。
今日は外に出るためガッツリとしたものを食べる。
ダンジョンの中だと料理なんて作れないからね。
▼
朝食を食べ終えるなり、装備を整えた僕たちはハンター協会へ足を運んだ。
何度来てもここは人が多い。
扉を潜り、受付までの間に何人ものハンターを見かけた。
「おはようございます、ノア様。本日はご依頼をお探しに?」
「おはようございます。ええ、その通り。何か報酬のいい依頼はありますかね?」
「どうでしょう……最近は勇者様が周辺の魔物を駆逐してくれたおかげで、あまり強力な個体の討伐依頼はありません。一応、探してみますね」
あの勇者が魔物の討伐、か。
一応、ちゃんと仕事はしてるみたい。
もしかすると僕を倒せなかったストレスからくる八つ当たりかもしれないが。
僕がくだらないことに思考を割いてる間、受付の女性はゆっくりと掲示板の方へ向かった。
相変わらず、恩義? がある僕に対してはすこぶる対応がいい。
普通、依頼を探しに行ってくれるもんなの?
楽だけど他のハンターに悪い気もする。
かと言って止めようとしても人の話は聞かないし、もう諦めた。
「さて、依頼が見つかるまでの間、適当に時間を潰すかな」
「わたしは先ほどの方と一緒に依頼を探しに行きますね。何もしてないと罪悪感が凄くて……」
「わざわざ二人も行く必要はないと思うけど……うん、よろしく、シャロン」
「お任せください!」
びしりと敬礼。
踵を返してシャロンも掲示板の方へと歩いて行った。
彼女もまた、雑用をこなすのが大好きなのだ。
何度も「仲間だからそんな召し使いみたいなことしなくていいよ」とは言ってるんだが……ナチュラルに命令されたいタイプらしい。
僕が何かをお願いすると凄く嬉しそうに笑うんだ、シャロン。
片や、
「……? なにかしら」
「いや」
アリシアの方は、周りを眺めながら無言。
特に気分が悪いとかじゃなくて、僕やシャロンと話してない時はだいたいこんな感じなのだ。
この前なんて、ちょっと目を離した隙にちゃらちゃらした男たちにナンパされていたが、何度話しかけられても彼らの言葉をスルー。
まるで聞こえていない、もしくは存在しないかのようにガン無視してた。
あまりの衝撃的光景に、嫉妬や怒りより先に同情してしまったよ……。
しかも、慌てて僕がアリシアの所へ戻ると、優しい笑みを浮かべて受け入れてくれた。
それを見て、話しかけた男たちの
可哀想に。
今後、ナンパは自重してくれれば幸いだ。
「ハンター協会は今日も賑わってるなと。アリシアはどう思う?」
「どう思う? さあ。わたし、ノア様とシャロン以外には興味ないの。仮にここにいる全員が死んでもどうでもいいわ」
「それは酷すぎる……まあ、僕もアリシアとシャロンさえ無事なら正直、ね」
「でしょ? 人間そんなもんよ。それで、急に何の意図があったの、さっきの質問は」
「別に。単なる世間話さ。依頼が見つかるまでの
「ノア様、そんなにお喋りでもないのに?」
「たまにはね」
僕だって静寂に耐えきれないこともある。
アリシアとはお互いにぺちゃくちゃ喋るような関係じゃないが、周りが騒がしいとどうも落ち着かない。
「ふうん。じゃあ、ノア様のこと訊くのはどう? わたしが」
「僕のこと?」
なんで僕のこと?
仮に知っても全然面白くないよ?
「ええ。ノア様って勇者の仲間だったんでしょ? 色々と面白い話があるんじゃない?」
「面白い話か……そうだね。自分で言うのもなんだが、それなりにあると思うよ」
「なら、それを聞かせて。ノア様の話なら興味津々よわたし」
「んー、じゃあ、勇者のパーティーとして魔物を狩ってた頃の話をしよう」
あれはたしか、まだお互いに慣れていなかった頃の話だ。
そう切り出そうとした瞬間、離れた位置からシャロンの声が聞こえた。
「ノア様~! アリシアさーん!」
「シャロン?」
声のした方へ視線を向けると、手を振りながら戻ってくるシャロンの姿が見えた。
しかし、
「誰、あれ」
彼女の傍らには、見慣れぬ少女がいた。
思わずアリシアが呟き、僕も被せる。
「
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