第31話 僕が手に入れた景色

 激しい一夜が明けて、朝陽が昇る。


 ベッドを軋ませ、うるさいくらいの嬌声きょうせいが失われた部屋で、ぽつんとベッドに座った僕が一人。

 カーテンの隙間から差し込む陽光を眺めながら、力なく呟く。


「つか、れた……」


 時刻は早朝。

 今もベッドに眠る二人を起こさないように、僕はぐったりとした体を持ち上げた。


 随分と早起きだろう?

 寝てないんだぜ。


 ほんの数十分前まで、三人での熱い夜は続いた。

 さすがは剣士シャロン。

 性欲に自信のある魔術師アリシアが倒れたあとも、彼女だけは無駄に元気な表情を見せた。


 途中、自分からではなく彼女たちにばかり動いてもらったというのに、精もこんも尽きはてて、今の僕はただの抜け殻といってもいい。


 端的に言うと……クソ疲れました。


「シャロンに昨日の疲労がなかったら、僕の方が先に倒れてたかもしれないな……」


 欠伸をこぼして僕は着替える。

 いつまでも全裸のまま室内をうろつくのはなんか嫌だった。


 ベッドに眠る二人は未だ全裸だが、寝てしまった彼女たちを起こすのは忍びない。

 それに、着替えただけで僕もすぐに寝る。


 今日はハンター活動は休みだ。

 勇者のこともあるし、少しの間だけ冷却期間を設けることにした。


「でも、こういう景色も悪くない」


 再び、ベッドを軋ませて彼女たちの間にもぐる。

 僕が多少ふれても二人は微動だにしない。

 よほど疲れたのか、可愛い顔を浮かべてぐっすりだ。


「異世界にきて、主人公じゃなくて脇役で……しかも死亡フラグの立ったモブ。最初は女神様このやろう! って思ってたのに、なんとかなるもんだなあ」


 枕に後頭部を埋めて、僕は過去の記憶を振り返る。

 はじめは期待した。


 ゲームのキャラなら待ち受ける困難にも立ち向かえると。

 けど、主人公たちは僕の想像とは違った性格をしてて、中でもエリックは酷かった。


 多分、エリックのせいで他の三人も黒く染まったのだろう。

 朱に交わればなんとやら、だ。


 次第にやる気はなくなり。

 彼らを陰ながら応援しつつ、適当に手を抜いて過ごした。


「そういや、一度ダリアのやつがミスって死にかけたこともあったっけ」


 懐かしい。

 あの馬鹿、自分には操作できない量の魔力を操って魔法を出したあげく、誤爆して僕を吹き飛ばしたのだ。


 ギリギリ防御魔法が間に合ったから無傷だったものを、なんの悪びれもなく謝罪すらなかった。


 今でも許せん。


「ん……ノア、様」

「え」


 と、そこで右隣のシャロンの声が聞こえた。

 ちらりと視線を向けると、気持ちよさそうに眠ったままだ。

 どうやら寝言らしい。

 起こしてしまったのかと思った。


「やれやれ……余計なことを考えず、僕もさっさと寝るか」


 脳裏に浮かんでいた様々な記憶を片隅においやり、フッと笑ってから目を閉じた。


 目を閉じると不思議なくらいの疲労感が全身に押し寄せ、安らかな眠りを本能に届ける。

 ああ、これなら簡単に眠れそうだ。


 最後に欠伸を大きく噛み殺してから、僕はすやすやと微睡まどろみの世界へ堕ちていく。


 起きたら、何をしようかと一瞬だけ思考が巡った。

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