第26話 強襲する勇者
「はあああ! ≪
少量の魔力が操られ、鋭い斬撃となって対象を刻む。
小型の魔物が相手なら十分に致命傷なりえた。
紫色のローブをなびかせた少女——アリシアは、ややドヤ顔で笑う。
「これで5体目ね。順調順調」
鮮血を撒き散らして倒れた魔物を見送って、僕は彼女たちの背後から手を叩きながら現れる。
「お見事お見事。火属性以外の魔法は苦手だって言うわりには、中々どうしてやるじゃん」
「えへん! 火属性の魔法に比べれば消費魔力量も多いし、操作難易度は上がるけど意外となんとかなるものね。ちょっと自信が付いたわ」
「それは何より。シャロンもお疲れ様。盾役、大変だったろ?」
「いえいえ。アリシアさんが優秀な魔術師なので、むしろ楽なくらいですよ」
「こっちこそ、シャロンが優秀な剣士だから敵が来なくて助かるわ。わたし達の連携、バッチリね」
「はい! お役に立てて光栄です」
楽しそうに話すところ悪いが、連携もクソもないんだよなあ……。
向かってきた魔物を前衛のシャロンが止め、離脱したところにアリシアが魔法を撃つ。
初見のハンターだって出来る簡単な作戦だ。
失敗する方が難しい。
たしかに個々の能力は悪くない。
初めて見たシャロンの身体能力、技術ともに素晴らしいものを確認できた。
だが、ダンジョン探索は始まったばかり。
たかが5体の雑魚を倒したくらいではしゃがれると……今後が不安になる。
——とは言わない。
喜びを分かち合うのはいいことだ。僕だって空気くらい読める。
順調なのは本当だし、自信を付けるのも悪いことじゃない。
「じゃあ、後は僕が魔石を抜き取るから、周囲の警戒をお願い。休みながらでいいからね」
懐から解体用のナイフを取り出し、僕はいそいそと魔物の毛皮を剥ぎ取る。
「ノア様、わたし、お手伝いしますよ?
「いいよシャロン。
「そ、そうですか……解りました……」
とぼとぼアリシアの下に帰っていくシャロン。
彼女はお願いすると際限ないからね。
こちらからストップをかけないと。
「——よし、これで五つ目。終わったよ、二人とも。お待たせ」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
魔石を魔法で構築した異空間に放り投げ、汚れた刃物や手を拭う。
解体の欠点は、金になるが汚れが付くところだな。
ゴブリンの体臭なんてマジで臭い。
「今、わたし達はどのあたりにいるんでしょう」
「うーん、そうだねえ。入り口付近からだいたい数百メートル先って感じかな。まだまだ奥は深いよ。そして、魔物がうじゃうじゃいる」
「相変わらず高性能な探知魔法ね。羨ましい限りだわ」
「アリシアは苦手だもんね、探知魔法」
「ええ。できて数メートルの探知なんて、ほとんど意味ないじゃない」
「そんなことないさ。その微妙な差が、いつか自分の身を守る——かもしれない」
「適当ね」
「適当くらいに考えておくのが一番だよ」
薄暗い洞窟内を進む。
僕が使ってる火属性魔法の明かりがなければ、歩くだけでも苦労しそうだ。
松明や魔術師は必須だな、ダンジョン。
それに、探知魔法を使って解ったことだが、魔物の量が尋常じゃない。
森や草原とは比べ物にならない、まさに魔物の巣窟。
ファンタジーって怖い。
「——!」
おっと。
そうこう考えてる内に、先頭を歩くシャロンが止まった。
後方の僕やアリシアに手で止まるよう指示。
剣を構える。
敵か。
「敵ね」
「敵だね」
シャロンは、僕たちみたいにまともな魔法は使えない。
だが、強化系の魔法に適正があるのか、優れた感覚はアリシアの探知魔法以上の精度を誇った。
何度も敵の接近を教えてもらい、アリシアも無言で頷くほど彼女の第六感を信用している。
そして、洞窟の細道、その奥から——魔物が現れた。
「次から次へと……最初は楽しかったのに、だんだん面倒になってきたわね」
「シャロンが言ってたからねえ。ダンジョンには基本的に大規模なパーティー——レイドを作って潜るものだって」
「それを三人で……忙しくもなるわ」
「適当に進んで帰ろうか」
「そうね。あの子、喜々として
「シャロンはほら、元気だから」
「ほんと、見てて飽きない」
ゴブリンやらコボルトやら、押し寄せてきた魔物を蹴散らすシャロンを見て、僕もアリシアも苦笑いを浮かべて彼女に近づいた。
そのとき。
恐れていた事態が起こる。
「≪
背後から、女性の詠唱が聞こえた。
稲妻が走る。
蛇のように細く、不規則な軌道で雷は僕たちを襲った。
しかし、
「≪
僕の発動した防御用の魔法によって、虚しく弾かれて空気に溶ける。
≪詠唱破棄≫は、様々な魔法を防御、解析、消失させる魔法。
メチャクチャ高度な魔法だが、僕は持ち前の魔力量で無理やり構築することが出来る。
「なっ——!? わたしの魔法を、防いだ!?」
薄暗い洞窟の中で、聞き覚えのある声が響いた。
はあ、と深い溜息を吐き、僕は後方の連中を強く睨む。
「何のつもりかな? 冗談で済む問題じゃないよね」
「くくく……やるじゃないか。低位の魔法とはいえ、ダリルの攻撃を防ぐとは……本当に、少しは強くなったのかい? ノア」
僕の明かりが照らす領域へ、一歩、また一歩を踏み込み、姿を現したのは——うんざりするほど絡んでくる世界の勇者、エリックだった。
彼は不敵な笑みを浮かべ、悪役然とした姿で言う。
「特別に、俺たちがお前らを試してやろう。代償は、——高くつくがな」
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