第25話 ダンジョン探索とストーカー
約1時間くらい森の中を歩いた。
道中、遭遇した魔物を駆逐しながらの進行は、微妙に時間がかかってしまう。
倒すのは問題ない。出てきたのが小型の雑魚ばかりで瞬殺だ。
問題は、そんな魔物の魔石を剥ぎ取るのが面倒だということ。
喜々としてやってくれるシャロンはともかく、10体を超えたあたりでアリシアが愚痴を漏らした。
『なんでコイツらわたし達に襲いかかってくるの?
と。
僕も同意見だ。
もはや僕かアリシア、そしてシャロンの誰かに魔物寄せのスキルでも付いてると疑いたくなる。
可能性で言えばアリシアかシャロンだね。
アリシアは前のゴブリン事件があるし、シャロンは前衛を務める剣士。
注意を引き寄せる魔法があっても不思議じゃない。
世の中には、人間が転生したり闇属性魔法を持ってたりするからね。
……うん、
「——あ! お二人とも、ダンジョンの入り口が見えてきましたよ!」
唐突に、先頭を歩くシャロンが騒ぎ出した。
慌てて僕は魔法を発動する。
視覚強化!
「……ほんとだ。崖の下にデカイ穴がある。あれが、アリシアの言ってたダンジョンかな?」
「ええ、間違いないわ。地形が変わるなんてこと、そうそうないもの。やっと着いたのね……歩き疲れた」
「ご、ごめんね。魔物の解体、任せちゃって」
そう。僕が倒した魔物は、彼女たちが残らず解体した。
と言っても体内の魔石を取り出しただけだが、十分に重労働だ。
「いいわよ別に。戦うよりマシだし、見てるだけじゃあ暇だもん」
「アリシアさんの言う通りですよ~。わたしはノア様の役に立てて幸せです! 肉体労働は得意なので、もっともっと頼ってください!」
アリシアはいつもながらクール。
けどシャロンの反応が凄い。ただの犬だ。尻尾と耳が見えてくるから困る。
ほどほどに頼らないと。
「ありがとう二人とも。ダンジョンの中では僕が解体を担当するから、戦闘に集中してね。任せたよ?」
「頑張って燃やすわ」
「たくさん斬ります! アリシアさんを守ります!」
「あー……シャロンはともかく、火属性魔法は遠慮してね」
「え——!?」
ガーン、という音がアリシアの口から聞こえてきた。
またレトロな……。
「当然だろ? 狭い空間で火属性魔法なんて使ったら、シャロンまで危険になる。破壊を避けた水や風属性で頑張るように」
「そ、そんな……」
この世の終わりみたいな顔をするが、こればっかりは認められない。
仲良く火だるまなんて嫌だよ、僕は。
「ワガママ禁止。絶対に使うなってワケじゃないんだ。あくまで、広範囲に広がる魔法はダメだよって話。魔力操作で出力を絞り、範囲を狭めれば——実用的に使えるんじゃないかな?」
「魔力操作……なるほど。それが狙いね」
「ご名答」
洞窟と聞いた時、真っ先にアリシアの訓練を思い浮かべた。
彼女は魔力総量が多いから、魔力操作が他の魔術師より大変だ。その練習に、ダンジョンは非常に相応しい。
実戦を通して、魔法の何たるかを学ぶことができる。
一石二鳥。——いや、一石三鳥、四鳥だ。
シャロンのさび落としもできるし。
「そういうことなら頑張るわ。わたしの課題は、魔力操作ね」
「ああ。限られた魔力を、より効率よく運用する。魔術師には欠かせない練習だろ?」
「頑張ってくださいねアリシアさん! わたしも頑張ってアリシアさんを守りますから!」
「ええ、よろしく。頼りにしてるわ、シャロン」
「はい!」
シャロンが腰に下げた鞘から剣を抜き、アリシアが自らのローブをはためかせる。
どうやら準備は万端らしい。
僕の合図でシャロンを先頭に、アリシア、僕と続く。
薄暗い洞窟内を魔法で照らし、ダンジョン探索が始まった。
▼
ノアやアリシア達がダンジョン内へ侵入した頃。
彼らを遠くから追いかけていた集団が足を止めた。
「奴ら、ダンジョンに入ったな」
不機嫌そうに眉を下げた金髪の青年——エリックが呟く。
隣に並ぶダリアが反応を示した。
「みたいね。危険な所って知らないのかしら? 無能だから」
「理由はどうでもいいさ。むしろ、ダンジョンに入ってくれたのは都合がいい。……昨日の借りを、あそこならたっぷりと返せるからね」
額に怒りを滲ませたエリックが、くくくと喉を震わせる。
冷静に見える言動は、内側に孕む激情の塊を抑えて、どうにか成り立っていた。
本当なら、今すぐに剣を抜いて斬り殺したい気分だが、下手に誰かに目撃されたら困るのは勇者だ。
仲間の説得に答え、なんとかここまで来れた。
「本当にやるんですね。相手がノアさんとは言え、傷付けるのは忍びない」
「俺を——勇者を! コケにしたんだぞ? 許せるのか? ただの平民が、貴族を馬鹿にしたんだぞ! 極刑ものだ」
「そうそう。惨めに地面を這い蹲ってればいいのに、可愛い子ばっか連れちゃってさ。生意気よねえ。ノアも、あの子たちも」
「あたしは別に、恨みも遠慮もありません。リーダーがそれを望むなら、断れませんね~」
「ということだイリス。他に、何か文句はあるかい?」
ぎろりと鋭い視線を向けてエリックは彼女を威圧した。
勇者の本気の威圧を受けて、平然としていられる人間はいない。
なんせ、腐っても彼は人類最高の才能を持つ天才だ。
一部を除き、あらゆる面が規格外。
冷静沈着なイリスも汗を垂らして否定する。
「いえ、何も。平民が貴族を見下すことはわたくしも許せません。正しい行いを、お願いします」
「ああ、当然だとも。勇者らしく、圧倒的な力の差を——見せつけてやるさ」
ブレーキの壊れた勇者エリックは、殺意にまみれた視線を洞窟の方へ。
並々ならぬ私怨のもと、ゆっくりと歩き出した。
己がどんどん破滅の未来へ向かってるとも知らずに。
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