第23話 夜這いの人数が増えたぞぉ!
「……アリ、シア?」
目を開けると、ロウソクの火に照らされたアリシアが、僕の上にまたがっていた。
——全裸で。
「お前……なにしてんの?」
「なにって、見たら解るでしょ? 夜這いよ、夜這い」
「…………」
コイツ、またか。
一緒にパーティーを組んでから、
せめて正々堂々と正面から来いと言ってるのに。
「怠い。また明日な」
僕は面倒になった。全てがどうでもよくて、瞼を閉じる。
すると、
「寝・る・な!」
グイッ!
思い切り首を持ち上げられる。
「いた、——いたたたた! それ痛い! 普通に痛い!
「愛しい女性が全裸なのに、
「……ふたり?」
嫌な、予感が、した。
「あ、あの……すみません。お邪魔、してます」
「シャロン? なんで、ここに……」
的中ぅぅう!
よく見るとアリシアの後ろに、こちらを見下ろすシャロンの姿があった。
目覚めたばかりで気付かなかった。
しかも薄い布地の服を着てる。ほとんど下着が透けてるよ!
「ふふん。わたしが呼んだのよ。ノア様に対するお詫びがしたくない? ——って声を掛けてね」
「お前のせいか……」
じろりとアリシアを睨む。
だが彼女は気にした様子もなく笑った。
「感謝してよね。シャロンは絶世の美少女。わたしにも負けないほど可愛いわ。そんな美少女を二人も侍らせられるのは、
「不安しかない」
率直な意見だ。
たしかにアリシアとは体を重ねて親密度を深めた。
今では素直に好きだと言える。
しかしシャロンは違うだろう。今日、仲間になったばかりの
無知なのをいいことに、彼女の純情を弄ぶとは……。
うぐっ!
心が、苦しい。
「見事にへたれたわね。ハンター狩りを倒し、オルトロスの動きを止めた魔術師とは思えないわ。もっと喜びなさい。ハーレムは男の夢なんでしょ?」
「まるで男性は皆、それを望んでいるかのように言うね。中には純愛を求めるピュアな人もいるよ」
「知らないわ。他人のことなんて」
バッサリと意見を切り捨てられる。
もはや聞く耳もたず。
自らの体をぐいぐいと押し付けてくる。
「大事なのはノア様の気持ち。こんなかわいい子に好かれて、嫌なのかしら?」
「うっ……いや、ではない」
「素直ね。褒めてあげる」
そう言って唇を落とすアリシア。
暖かく柔らかい感触を味わった。
「はわわわ! 大人の、大人の世界です! ほとんど同い年なのに、最近の子は進んでます!」
「あなたも今からするのよ。おめでとう、大人の仲間入りね」
「わたしが……!?」
シャロンが大袈裟にびっくりする。
「当たり前でしょ。しなかったら、何しに来たのよあなた。まさか、下着姿を見せに? なかなか上級者ね」
「え? え!?」
一般常識からかけ離れたアリシアの言葉に、僕もシャロンもついていけない。
ただ、空気は彼女の支配下にあった。
怯えるシャロンの手を取り、おもむろに僕の隣へ引っ張り倒す。
「きゃっ——!」
急接近する僕とシャロン。
隣を向けば下着姿の彼女が映る。
「しゃ、シャロン……」
「ノア様……」
思わずジッと見つめてしまう。
アリシアとは違った女性の体。すらっとした手足は長く伸び、やや筋肉質な胴体が健康的にエロい。
やばいなこの状況。目のやり場に困るとかそういうレベルじゃない。
油断すると、襲いかかりそうになる。
「いい雰囲気ね。お邪魔かしら」
アリシアが茶々を入れて、僕もシャロンもハッと現実に引き戻された。
あ——危ない危ない!
あと少し止められるのが遅かったら、手を伸ばしていたかもしれない。
美少女を目の前にした時の男の理性など、所詮はそんなもんだ。
グッと唇を噛み、性欲を抑える。
「お、お邪魔だから帰ってくれ。今日のところは、みんな休もう。疲れてるだろ? アリシアだって」
「問題ないわ。たしかに魔物討伐は重労働だったけど、性欲と疲労は別物なの」
「元気だなあおい!」
コイツに封印系の魔法をかけたくなった。
≪虚無鎖≫いっとくか……?
「シャロンも帰っていいんだぞ。どうせ無理やりアリシアに連れて来られたんだろ? 若い子が、みだりに異性の前で下着や肌を晒すのはよくないよ」
「お爺ちゃんみたいね」
「うっさいわ! お前はしばらく黙っておきなさい!」
いらんことまで言うアリシアは放置して、顔の真っ赤なシャロンを説得しにかかる。
「ね? 解るだろうシャロン。君は誠実な子だ。本当なら、恥ずかしくてしょうがないだろ? 今すぐ自分の部屋に戻りたいはずだ。無理せず、大人しくお帰り?」
「わ、わたしは……自分の意思で、——自分の意思で来ました! ノア様に恩を返し、少しでも寄り添いたいんです!」
おや?
急に勢いが増したぞお?
「い、いやだから! そういうのはもっと別の方法で——」
「大丈夫です! 決してヤケになってるとか、暴走してるとか、言いくるめられたわけじゃありません。恋愛なんてまともに考えたこともないですが、この不思議な胸の高鳴りを……わたしは、知りたいんです」
「シャ、ロン……」
真っ直ぐに言い切られると、流石に言葉が詰まる。
「気のせいかもしれません。一時の迷いかもしれません。惚れやすく、単純な女だと馬鹿にしてください。それでも、——この気持ちを、本物にしてほしいと思ったんです。ノア様に」
熱く、厚く、暑く。
シャロンの熱意が僕に注がれた。
「ここまで言われて、まだ逃げるの? ノア様は。いい加減、覚悟を決めなさい」
「……ああ、解ってるよ」
そんなこと、言われた瞬間に理解した。
前世の記憶に引っ張られ過ぎたのかな。
僕は、僕らしく生きればいい。
面倒なことは全て後回し。ただ、乞われたままの自分を見せるんだ。
言い訳? そうとも。
これは開き直りとも言う。
だが、可愛い女の子に好意をぶつけられ、開き直らない男はいないだろう?
据え膳喰わねばなんとやら。
いつの間にか緩んだ僕の拘束。
ゆっくりと、自然にシャロンへ向かって手を伸ばした。
彼女の柔らかな肌に触れる。
触れた瞬間——、
「や……」
「や?」
「——やっぱり、無理ですううううぅぅぅううう!!」
と言って、彼女は勢いよく起き上がると、部屋から出て行ってしまった。
まさに脱兎の如く。
後に残された僕とアリシアは、開かれた扉を見つめて、
「「シャロンらしい」」
と同時に呟いた。
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