第19話 またお前か勇者

 シャロンとのひと悶着も終わり、魔石の回収を済ませた僕たちは、準備を整えて帰路に着く。森の浅層とはいえ、ここから歩いて帰るとなると、地味に時間がかかるのだった。


「——パーティー、ですか?」


 帰り道、雑草や木の枝を踏み付けながらシャロンが答える。

 僕とアリシアは揃って頷いた。


「そう、パーティー。シャロンが僕たちと同じハンターなら、一緒にパーティーを組まないかって提案。どうかな」

「それは、もちろんありがたい話ではありますが……」


 おずおずとシャロンは言う。


「お二人のお邪魔になるのでは? 実力的な意味でも、男女の仲という意味でも」

「あら、シャロン、あなた聡明ね。わたしとノア様がそういう仲だって——気付いてたの?」

「意識を取り戻してから、ずっと仲良さそうにしてましたし、わたしじゃなくても解りますよ」

「ふふ、だそうよノア様。わたし達、お似合いカップルだって」

「いや、そこまでは言ってない」


 勝手にシャロンの言葉を捏造するアリシアにツッコミを入れて、


「気にしなくていいよ。この通り、彼女は君のことがだいぶ気に入ってるようだからね。僕も新しい仲間が増えてくれると嬉しい。改めて、どうかな?」


 僕は再び問う。

 照れた顔でシャロンが言った。


「えっと……その……わたしなんかでよければ、——よろしくお願いします!」

「よろしくシャロン。今日から僕らはパーティー、仲間だ」

「よろしくねシャロン。あなたはいい子だから、ノア様の愛人に認めてあげる」

「あ、愛人——!?」


 シャロンがアリシアの冗談を真に受ける。

 雪のように白い肌をみるみると真っ赤にさせ、


「……よろしく、お願いします?」


 と僕の顔を見て言った。


「今のはアリシアの冗談だから、受け流してくれていいよ」

「え? え!?」


 困惑するシャロンに、アリシアの笑い声が混ざる。

 小さく、


「冗談かしらね……?」


 と言ったが、僕の聞き間違いだよね?




 ▼




 僕の大いなる疑問を含んだまま、しばらく街道を歩いて王都に到着。

 正門を守る衛兵に、ハンターライセンスを提示して街中へ入った。


 既に時間は夕刻。空がオレンジ色に染まっていた。

 雲は微かな軌道を描き、正門を抜けた先にはたくさんの人々が行き交う。


「さてと。まずはハンター協会への報告かな? オルトロスの魔石を売却したいし」

「そうね。面倒なことは先に終わらせて、その後でゆっくりと食事にしましょう? パーティーを組んだばかりで、話したいことはいっぱいあるし」

「解りました。わたしはお二人の後ろに続きます。買い物でも報告でも食事でも、なんでも付き合いますよ! むしろお金を出してもいい!」


 いい笑みを浮かべてとんでもないことを言うシャロン。

 さしものアリシアも呆れた表情を作り、


「やっぱり仲間にしてよかったわね」


 と言った。

 僕が同意する。


「まったくだ。優しいを通りこして馬鹿だね……嫌いになれないお馬鹿さんだけど」

「——?」


 僕たちの生暖かい視線に晒されて、シャロンがわたわたと困り果てる。

 なんだか前世でいうマスコットキャラみたいな子だ。少々、情が湧いた。


「な、なんですかお二人とも? どうして、そんな顔でわたしを見るんですか?」

「いえ、なんでもないわ。気にしないで。それより、早く協会へ行きましょ。遅くなるとお腹が空くわよ」

「だね。あー、今日は何を食べようかなあ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいお二人とも! わたしを置いて行かないでくださいよ——!」


 スタスタとシャロンの疑問を置き去りに、僕とアリシアはハンター協会へ向かった。遅れてシャロンがその背中に追い付き、三人並んで歩幅を合わせる。


 と、そのときだった。


 口を開きかけたアリシアの言葉を遮り、背後から聞き覚えのある声が響く。

 低音でいて、怒りを孕んだ声が。


「やっと見つけたよ——ノア」


 振り返らなくても解った。解りたくないけど解った。

 しかし一応の礼儀を示して僕は振り返る。


 背後の通りには、夕陽を背にした複数の男女がいた。

 それぞれ全員が、僕の顔馴染み。

 会話するのも億劫な連中が、またしても僕の所に乗り込んできた。


 やれやれと肩を竦めて、先頭の男性の名前を呼んだ。



「何の用かな……エリック」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る