第14話 最速ランクアップ!

 邂逅したハンター協会会長の姿を見て、その人間らしからぬ風貌に、僕は恐れおののく。


「こ、こんにちは……ノアと、こっちがアリシアです」

「こんにちは」

「話は聞いてるよノアくん。アリシアくん。君たちはあのハンター狩りを捕まえてくれたそうだね」

「なんというか、成り行きで」

「ははは! 成り行きで捕まえられるとは、奴らも災難だな。こちらとしては大いに助かったが。……それで、襲われていたハンターは?」

「ハンター? ああ……男の人なら無事ですよ。今ごろは自分の怪我を治してる最中じゃないですかね。もう一人の仲間については……残念ですが」

「ふむ……そうか。いや、一人でも助けられてよかった。改めて、ハンター協会の会長として感謝する。こちらからも報酬を追加で出そう。受け取ってくれ」

「是非」


 鮮やかな手のひら返し。

 熊みたいに怖い人だけど、話がわかる人だ。


 顔に傷とかあって盗賊の頭みたいな雰囲気だけど、いい人だ。


「現金ね。お金を貰うから余計に」

「いいじゃん。くれるっていうんだから貰っておこうよ。お金はいくらあってもいい」

「ノアくんの言う通りだよ。ハンターとして生活するうえでも金は欠かせないものだ。人間の社会では特にね。断られると我々の方が困る」

「でしたら、お話というのはお金を渡すことですか?」

「それもある。が、まだあるよもちろん」

「え? そうなの?」


 てっきりお金をもらってはい終わりかと思ってた。

 なんだよ喜ばせやがって。


「ああ。君たちは最近ハンター登録したばかりの新人らしいね」

「ええ。アリシアは昨日登録したばかりの新人ですよ」

「ノア様もね」

「そんな君たちには早いとも思うが、どうかな。ランクアップしてみるというのは」

「ランクアップ?」

「ハンターランクのことさ。今はEだろう? 今回の件を解決してくれたお礼に、ランクをDに上げる」

「え? まだ一、二回しか依頼を受けてませんよ、僕ら」

「問題ないさ。むしろ、実力のあるハンターが下のランクに居続ける方が困る。優秀な人材にはすぐにランクを上げてもらい、様々な依頼をこなしてほしいんだ」


 あー、なるほど。

 そういう。


「先に言っておきますが、ランクアップしても面倒な依頼は受けませんよ。僕らは僕らがやりたいように活動する。制限を設けられても従いません」

「俺がランクを笠に君らを脅迫すると?」


 うん。めっちゃしそう。

 やってくれるよなぁ? とかすごまれたら超似合う。


「可能性がないとは言えないでしょう? ランクが上がるってことは、それだけ危険な依頼も増える。安全を考慮するのは当然です」

「たしかにな。思わず君らに声をかけることはあると思う。だが! 誓っておこう。強制はしない。精々、頼むくらいだ」

「……それでしたら、問題ありません。ランクアップをお願いします」

「うむ。承った。この紙を受付の誰かに渡してくれ。それでランクを上げてくれるだろう」

「わかりました。ありがとうございます」

「もう行くのか?」

「生憎と、依頼のあとでお腹が空いてて」

「そうだったそうだった。悪かったな、呼びつけてしまって」

「いいえ。こちらにも利のある話でしたから。——それでは」

「おう。また会おう、有望な新人たちよ」


 頭を下げて会長室を出る。


 あー、疲れた。

 ヤ〇ザの事務所に入った気分だよ。

 入ったことないけど。


「会長、人相悪かったね」

「でもいい人だったわ」

「それな。今後とも健全なお付き合いができそうだ」

「同性愛? 認めないわよ!」

「なんでやねん。僕はノーマルだよ」

「他に女を作る気!? 許さない」

「えー? なんでも怒るじゃん」

「冗談よ。面白かった?」

「殺意をぶつけられて怖かった。泣きそう」

「それにしては、飄々としてるじゃない」

「信じてるのさ、アリシアを」

「……こっちの台詞よ」


 長い廊下を超え、お互いに笑い合いながら一階のエントランスに戻る。




 ▼




「あの、会長からこれを預かっているんですが」

「? はい」


 熊さんヤ〇ザ会長から渡された紙を、受付の女性に見せる。

 すると、彼女は文字を読んで目玉が飛び出る勢いで驚いてみせた。


「こ、ここ、これは! ランクアップの申請書!? しかも会長自らが!? 新人ハンターなのに!?」


 何度も僕やアリシアと紙面を見比べて腰が抜けそうになってる。

 さっきの現場には彼女いなかったのか。

 タイミングが悪いことに、休憩あけの職員に当たったらしい。


「お願いできますか?」

「え、ええ。それはもうやれと言われればやりますが……すごいですね。ハンター協会ができてから数えても、最速記録ですよきっと」

「へぇ、そうなんですか」

「名前、覚えました。ノアさんとアリシアさんですね。明日には、他の職員にも伝えておくので、覚悟しておいてください! 新たな英雄の誕生だってみんな期待しますよ」

「はい? それはこま——」

「じゃあノアさん達のライセンスをお預かりしますね。ささ、出してください」

「……」

「この人、びっくりするくらい強引ね。人の話を聞かないタイプだわ」

「僕もそう思った。お願いしても絶対にばらす」

「喜々としてね」


 仕方なく、僕は諦めてハンターライセンスを提出した。

 謎の機械を通してハンターライセンスの情報が書き換えられる。


 いや、実際には見てないからわかんないよ?

 でもランクを変えるんなら書き換えてるはず。

 ハイテクだね、変なところで。


「ライセンスの更新が終わりました。どうぞ、ハンターライセンスをお返しします。内容が間違っていないかどうか、ちゃんと自分でも確認してくださいね」

「わかりました」


 数分もすればライセンスが戻ってくる。

 綺麗な表面に視線を落とし、表示された文字をまじまじと見た。


 と言っても、変わったのはランクだけ。EがDになっている。


「問題ありませんね。こんな時間にわざわざありがとうございました」

「いえいえ~。将来に期待できる有望な新人のライセンス情報をいじれて、わたしは感激してます! これからもハンター協会のハンターとして頑張ってくださいね!」

「ほどほどに」


 そう言って彼女と別れた。


 扉を潜ると、世界は暗闇に包まれる。

 ゴブリン討伐からここまで、意外な展開ばかりでちょっと疲れたな。

 早く帰ってご飯を食べて休みたい。


「帰ろうか……宿に」

「そうね。わたしも今日は、無駄に疲れたわ」

「でも、その甲斐あってお金はたんまりだ。なんでも奢るよ」

「本当? なら——」


 帰り道、解放された僕らは楽しく話し合う。

 夕食の内容や、ささいなプレゼントについて。

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