第12話 圧倒的じゃないか僕ぅ!

「みんなで追いかけるって、——どうするつもり?」

「もちろん、僕が彼を運んで移動する」

「いくらなんでも無茶じゃあ……」

「魔術師に不可能はない。さっきみたいに風魔法を使えば——」


 ふわッ。

 倒れている男が、ゆっくりと浮かび上がった。


「こうやって持ち運べる。≪浮遊フライ≫の魔法。覚えておくといいよ」

「へぇ。便利な魔法ね」

「普通は自分にかけて飛行するための魔法だから、他人にかける場合は魔力操作が難しくなる。注意して」

「機会があればね」


 僕とアリシアは森の中を駆けた。

 魔法を発動しながら移動することより、浮かばせた男が周りの木々にぶつからないよう調整するのがめんどくさい。


 だが、順調に犯罪者を追跡できてる。


「ねぇ! どこにいるのかわかってるの? まさかとは思うけど、適当じゃないのよね?」

「ああ! ≪千里眼≫の魔法を使ってる。今も覆面二号の背中が丸見えだよ。どうやら、他にも仲間がいるらしい。一人追加だ」

「千里眼……また高度な魔法を」

「使えると便利だから、アリシアも覚えなよ!」

「無理よ。得意魔法すらロクに操作できてないのに、千里眼なんて夢のまた夢」

「そう? 習得したくなったらいつでも声をかけてくれ」

「その時はお願いするわ」

「というわけで、——そろそろ追いつくよ」

「了解」


 身体強化魔法を駆使した踏破。

 人間を超越した動きで覆面二号に迫る。


 最初はこちらを上回る速さで移動してた彼も、追跡してこないとわかると速度を緩めた。


 恐らく魔力を温存するためだろう。

 生憎と、僕からは逃げられない。

 それこそ地平線の果てか宇宙空間まで逃げない限りね。


「到着——と」


 呟いて、地面を全力でこすりあげる。

 急ブレーキだ。


 突如として現れた僕たちに、覆面男は動揺を隠せない。


「なにッ!? 完全に撒いたはず。どうやって……!」

「コイツらがお前の言ってた邪魔者か。魔術師二人のパーティー? 随分とバランス悪いな」

「いやいや、僕は万能だから問題ないよ。剣も使える」


 腰から剣身を抜いてみせた。

 お得意の近接戦闘もバリバチ得意だよ~。


「ハッ! 羨ましいことで。けど、馬鹿正直に戦うつもりはねぇんだわ。お前らの相手は、——魔物がしてくれる」

「あれは」


 新たに加わった覆面男三号。

 体内の魔力を練り上げ、魔法を発動した。


 消費された量はそれほど多くない。

 だが、次々と彼らの背後から魔物が押し寄せてくる。


 目の前の覆面男たちはスルー。

 真っ直ぐに僕たちを殺そうとしてきた。


「≪服従テイム≫……契約魔法の使い手か。希少魔法なのに悪人でいいの?」


 防御魔法で突っ込んでくる魔物をガード。

 視界がほとんど肉で埋まる。


「所詮、服従テイムは弱い個体しか操れねぇ。将来性は皆無だよ」

「それは君の才能が低いからでしょ。魔力量があれば中型以上の魔物だって操れる。魔力操作頑張った?」

「うるせぇ! お前に俺の何がわかる!」

「さあね。わかりたいとも思わないし、わかろうとも思わない。ただ……敵対するなら——殺すよ?」


 地属性魔法発動。


「≪破砕クエイク≫」


 地面が割れた。

 内側から噴き出すように、乗っていた魔物たちを一斉に吹き飛ばす。


 砂煙が晴れたあとには……何も残らない。


「いやー、スッキリスッキリ。無事かな? 覆面くん達」

「ぐ——うぅ!」


 近くにいた彼らも先程の魔法に巻き込まれて負傷した。

 致命傷にはなっていない。

 適度に痛めつけられるように調整したからね。


「見たとこ軽傷か。よかったね、骨が折れなくて。折っといた方が抵抗されないで済むから、数本折るつもりで魔法を使ったのに。運がいい」

「畜生。こんなふざけた奴に、俺らがやられるなんて……!」

「調子に乗ってハンターを狩ろうとするからそうなる。自分たちが狩られるとは思わなかったの?」


 馬鹿な奴らだ。

 あれだけの能力、まっとうにハンターとして生きてたら中堅にも手が届いたろうに。


「ノア様……強い」

「だしょ。生きるために必死に力を付けたんだ」

「あの勇者といた頃に?」

「うん。活動の合間に死に物狂いでね」


 懐かしい思い出だ。

 昼は冒険&仲間からの罵倒&雑用。

 夜は雑用&魔法訓練。


 魔法で無理やり睡眠時間を削ってなきゃ、今の僕は成立しなかった。

 少なくとも数年は強くなるのに時間がかかったはず。


「おかげでまだ若いのに灰色の人生を過ごしてきたよ」

「パーティーを抜けて、幸せ? 今は」

「超幸せ。可愛い仲間も増えたしね」

「えへん」

「あはは。……さて、連中が回復する前に縛り上げておこうか」

「それくらいなら手伝うわ」

「ダーメ。抵抗する可能性がある。万が一を考えて僕一人でやるよ」

「残念」

「もっと強くなったら、いろいろ協力してね」

「……頑張るわ」

「それでこそアリシアだ。彼を頼んだ」

「ええ」


 一度、浮遊魔法を解除して転がる男たちに近づいた。

 こんなこともあろうかと用意してあった縄を手に、覆面たちをぐるぐる巻きにしていく。


「感謝してくれよ犯罪者諸君。君らの身柄は王都の衛兵たちに受け渡す。この場で殺さないだけ優しいよね」

「ふざけんな! どうせ俺らは処刑される! すぐに殺せ! この野郎!」

「はいはい。敗者の要望が通るとでも? 馬鹿みたいに吠えても怖くないですよ~」

「くそおおおおお!」


 ギリリと歯を鳴らす覆面一号、三号。

 無力化してみるとあっけないもんだな。


「精々、僕たちの活動資金になってね、ハンター狩りさん」


 二人とも縛り終えた僕は、最後にそう告げて魔法を発動するのだった。

 無理やり彼らを王都に届けるための魔法を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る