皇子達の決意

 俺はとんだ愚か者だ。偉大なる竜だとしても限界があると解っていたのに、俺達は偉大なる竜に依存してしまった結果が今だというのに、俺はクーアは大丈夫だと思ってしまった。


 クーアが井戸を復活させてくると聞いた時、クーアなら出来るだろうと簡単に考えてしまった。水を操り浄化を司る龍であれば、奇跡も起こせるだろうと浅はかに。クーアは思っていたように、井戸をあっという間に浄化してしまった。俺達の魔力も使ってもらったがほんの少ししか足しになってないだろう


 クーアの魔法によって井戸から光が溢れその様子は、神の降臨を思わせるほど神秘的であった。圧倒的な魔力なのに全く威圧感は無く優しく俺達を包み込んでくれる優しい魔力に心を洗われていると、次は水が勢いよく水噴き出し始めた。


流石クーアだ。そう思ってしまった。


 住民たちは神秘的な様子に見惚れクーアを崇めていたが、水が噴き出した瞬間わっと歓声が上がった。水が復活しただけでも奇跡なのに、その水はまるで生き物のように愛らしい動物の姿になり、水を町中に率いていく。無邪気にそしてかわいらしく飛び跳ねる動物たちはまるでクーアのようだった。


 これでもうサスヴァンは大丈夫だと安心した瞬間、今まで感じたことが無い程の圧倒的な魔力を感じ振り返るとクーアが水の中で浮かんでいた。


 本当にクーアなのか・・・・?クーアの魔力や気配は何時も感じていたがまるで違う。より強大で意思が薄い何かの気配を感じる。無機質だが、本能的に覚えている気配だ。全ての生みの親、すべての根源である何かだ。


 クーアが何処かに行ってしまうんじゃないかと思い、圧倒的な魔力に竦む体を無理やり動かし一歩ずつクーアに近付いていくが全然思い通りに体は思い通りに動いてくれない。そうしている間に、一瞬圧倒的な魔力が消えクーアが水の中から出てきたかと思うと、すぐにまた魔法が始まった。


 「クーア!!」


 こんなに多くの魔力を使ったらいくらクーアでも!!!


 叫んでも俺の声は届いていない。またクーアから圧倒的な魔力を感じたが止めさせなければ。そこまでする必要は無いんだ!何度も名前を呼ぶが全く聞こえてないみたいだ。だが呼びかけるのを止めない。一歩ずつクーアに近付き体に触れようとした時魔法が止まりクーアが力なく倒れそうに、


「クーア!!!!」


 倒れる前に何とかクーアを抱きしめ、確認すると意識は無いが息はしている。だが、あんなに有った魔力がほぼ無くなっている。


 不味い・・・・魔力は命と同じだ。魔力を持っているの者が魔力を完全に失えば命に関わる。俺の魔力はほとんど使ってしまっているし、治療魔法が使えるレイランも枯渇している。


「「「クーア様!!!」」」

「レイラン、クーアの魔力が!」

「!失礼します」


 焦りながら駆けつけてきたレイラン達。レイランがクーアに手を当て探ると、


「大丈夫です、命に関わるほどでは無いです。ですが、ゆっくり休ませる必要が」

「そうか、すぐに休める場所へ」


良かった・・・・だが、あのクーアが休ませないといけない程弱っているのだ。すぐに安全な場所で休ませなければ。


「私の家に!」

「いえ、クーア様は水の傍にいた方が良いと思います」


 クーアを抱き上げ移動させようとしたが、レイランが止めるた。確かにクーアは水の龍だ。水の近くに居た方が回復も早いだろう、水なら今クーアが復活させた井戸がある。


「なら井戸に!」



 あれから井戸は絶え間なく溢れ続けている、此処なら水に包まれ休むことが出来るだろう。


「クーア」

「クーア様・・・・」


 水の上に浮かばせたクーアは、苦しんでいる様子は無くただ寝ているだけに見えるが・・・・


「すまない、無理をさせてしまった・・・・」


 クーアは無邪気で純粋だ。俺達の事を素直に信じ、疑うことをしない。そして、俺達が困っていると何でも対価を求めず解決してくれる。その精神は高潔で純粋で慈悲にあふれていた。俺はそれに甘えてしまった。クーアはいくら龍だとしても生まれたばかりなのに・・・・


 愚かな自分に腹が立つ。ギリッと自分の手から血が出るほど握ってしまったが、その痛みも気にならない。ただただ自分が許せない。


「いや、無理をさせたのは私のせいだよ」

「いや、頼んだのは俺だ」

「止めなかった私達にも責任があります」

「違う、俺が・・・」


 グレタ達は言ってくれるが、判断を下したのは俺だ。王族である俺が一番責任を取らなければならないのだ。


「言い争っている場合では無いでしょ?」


 シリアの一声でハッとした。確かに今言い争っている暇は無い今俺達がすべき事はしなくては。クーアは今弱っている、危害を加えようとする者は居ないだろうが守らなければ。

 住民たちもクーアを心配し集まっているが、誰も傷つけることは無いだろうが簡単には近づかせるわけにはいかない。

 

 幸い魔力は無くなっているが動くことは出来る。クーアが目覚めるまで守り続けることは出来るだろう。俺達はクーアを囲むように達決して近づかせないように守ることにした。

 住民には悪いが、クーアへの礼は起きた時にしてもらおう。そして、クーアが起きた時しっかり謝罪をさせて欲しい。だから、お願いだ無事目覚めてくれ。


 国を救うのは王族の義務、この大地を守るのは国民の義務。このすべてをクーアに背負わせる訳にはいかないのだ。すべて俺が背負うべき義務で、クーアは縛られるべきでは無い。


 もう大地を再生しなくても良いと言ったらどう反応するだろうか?嫌だと言うだろう、何でと思うだろう。皇子としてこの判断が正しいのかは分からないが、俺はクーアの命を優先したい。

 

 俺の命を救ってくれたクーア、俺が付けた名前を喜んでくれたクーア


 何度もクーアをこんな状態にはしたくない。そんな気持ちを優先してしまう俺は愚かだろうか。


「皇子、クーア様がどんな存在であるかは知らないけど一言言わせて欲しい」

「あぁ何でも言ってくれ」

「私達はエルディラン様とヴィラス様に依存してしまったが故に、お二人を助けられなかった。同じ過ちを繰り返す訳にはいかない。強大な存在に甘えるんじゃなくて、私達の力でこの国を守らないといけないんだ。それが私達が出来る唯一の贖罪だから・・・・。クーア様に頼った私が言える事じゃないけどね」

「そうだな・・・・次は俺達の力で守らなければ」

「クーア様に頼ってばかりじゃ駄目ですよね」

「あぁ守護騎士を名乗っておきながらクーア様に守られてる・・・・情けない」

「クーア様には辛い事じゃなくて楽しい事だけ感じて欲しいからね!」


 全員の気持ちは同じだ。俺達の国は俺達で守らないといけない。クーアにはずっと笑い続けて貰いたい。俺達はその決意を固めるのだった。

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