俺、井戸を復活させるよ

 外に出てみると、人がいたるところで忙しそうに出歩いていた。まだ朝なのにみんな起きるの早いんだな~。道を通る人は、壺を持ってたり武器を持ってたり道で子供が遊んでいたりと活気づいている。


「お~人がいっぱい居る!」

「ここは砂の民が住んでいる場所の中でも大きな町だからね」


 グレタが見やすいように肩車をしてくれて上から見るとみんな忙しそうだ。昨日は少し暗い雰囲気だったのに、今日はみんな嬉しそうだ、どうしたんだろう?


「みんな嬉しそうだけど何かあったの?」

「ははっクーア様のおかげだよ」

「俺?」


 う~ん、何でだろう?ここに来るまでの道は大地を復活させたけど、この町の大地は復活させてないし水だって引いてない。俺の正体が龍だってことも知らないはずだから、俺が来て喜ぶ理由なんてないはずだけ・・・・?もしかして、みんな子供好きとか?


「みんな子供が好きなんだね~」

「はっはっはっ違う違う、いや違くはないけどね」


 ウォル達とグレタ、ネフェスが腹を抱えて笑ってるけど、俺何か変なこと言った?


「みんなが喜んでるのは、クーア様が私の怪我を治してくれたからだよ」

「?そんなことで?」

「クーア様にとってあの魔法は簡単なものなのかもしれないけど、私達にとっては奇跡そのものさ」

「頭領はみんなに慕われてますからね、本当にありがとうございます」

「そ~なんだ~」


 だからみんな俺の事を見ると頭を下げたり、手を振ってくれるのかな?お礼を言われて嬉しくない訳が無いよね!もし尻尾が有ったら高速で振ってたかもしれない。俺の魔法がみんなの役に立ったみたいで良かったよ!


「私達砂の民は、砂漠で魔物たちを退治することを生業にしてるから、怪我はしょっちゅうだし死も覚悟してるんだけど。覚悟してても死は悲しいものさ。それを助けてくれたんだからクーア様はもっと偉そうにしたって良いんだよ」

「褒められるのは嬉しいけど、好きでやったことだから偉そうにするとかは興味な~い」

「そうなのかい、それじゃあ私も気軽に接した方が良いかい?」

「うん、そのほうが嬉しい~」


 俺は龍で人とは違うけれど、気にせず接してくれると嬉しいな~。この国の守護竜は拝められて、王としてみんなと仲良くしてたみたいだけど俺はただのクーアだから、気にしないでほしいんだよね。


「それじゃあ、クーア様我が町サスヴァンを案内しようじゃないか」

「お~!」


 グレタに案内され、町の中に進んでいくけど行き会う人たちは同じような格好をしてる。布を体に巻き付け、肌があまり見えない格好をしていて、口元に布を巻いている。色は白が多いけど、所々にいろんな色や模様の刺繍がしてあって華やか!


良いな~鮮やかだし俺も欲しい!


「ねぇねぇグレタ」

「なんだい?」

「みんなが口につけてるやつなに~?」

「あぁストールの事かい。ここら辺は砂だらけだろ?風も強く吹くときもあるから舞った砂埃を吸わないように口を隠してるんだよ」

「へ~そうなんだ。綺麗だね!」

「自分の好きな柄を刺繍してくれるから、人それぞれ違うんだよ」


 へ~好きな柄を刺繍してくれるんだ!俺は柄とか分からないから気に居る物があると良いんだけど・・・・。あっその前に俺お金持ってないや。う~ん、お金って何かを売ったりすると貰えるんだよね?何か売れそうなものあったかな~


「砂の民の格好は砂漠で生き抜くために必要な格好なんだよ。ここは昼間は暑く夜になると冷え込むからね。そのために通気性が良くて、寒さにも耐えられる服装じゃないといけないのさ」

「なるほど」

「あと特徴的なのは。私達の家だね」

「あ、知ってる!シャールクが教えてくれたんだ~砂で出来てるんだよね?」

「お、博識だね。そうさ、私達の家は砂で出来てるのさ」

「ボドンって言う植物を使ってるんでしょ?」

「お、そんなことまで知ってるのかい。そうさ、ボドンの蜜を砂に混ぜて固めると魔獣の攻撃でさえ耐える強度になるのさ」


 へ~でも、魔獣の攻撃に耐えるほどの家が必要な砂の民っていったい何をやってる人なんだろう?至る所に鍛冶屋があるし、武器を持ってる人も大勢居るから戦うのが好きなのかな?


「ね~グレタ、砂の民って何をやってる人達なの?」

「砂の民は、砂漠を守る戦士なのさ」

「砂漠を守る?」


 町を守る戦士なら分かるけど、砂漠を守る戦士って言どういう事なんだろう?俺は意味が分からず頭を傾げているとウォルが説明してくれた。


「砂の民は砂漠に湧く魔物や魔獣達が国の中央へ入っていかないように防衛する戦士なんだ。そして、砂漠の監視者でもある。俺達の国は厳しい砂漠に囲まれているから、攻めずらいが偵察や旅の人間なんか時たま砂漠に入ってくるんだ。そいつらを監視し危険であれば国に報告して排除する役目を砂漠の民は担っているんだ」

「そ、私達は国の防人なのさ」

「グレタって凄いんだね!」


 国を守るってことは、守護竜さん達が愛したお気に入りの場所を守るってことと同じことだよね。それって凄い事だと思うし、お気に入りを守ってくれるなんて守護竜さんも嬉しいだろうね。

 でも、砂漠って空から見た感じだと広かったけどこの町だけで砂漠全域を監視なんてできるのかな?


「不思議そうな顔をしてますねクーア様」

「うんレイラン、砂の民っていっぱい居るの?」

「あぁそういう事ですか」

「砂の民は砂漠の至る所に住んでいるんだ。この町は砂の民の拠点みたいなものだな」


 レイランとアルベルドが俺の疑問に答えてくれた。砂の民って凄いけど大変そうだね。


「砂の民はエルヴィラス皇国の要の一つでもあるんだ。砂の民が国の異変を感じ俺達に伝えることによって今まで様々な問題を早期に見つけ解決できていたんだが・・・・」

「最近は砂の民でも水源を見つけるのが大変でね。魔物や魔獣も増えているし」


 魔獣や魔物って汚染した魔力が集まる場所に現れるから、きっと数が増えているのは汚染された魔力が地面の下を通ってるからだろうね。此処に来るまでの道は水を通したから大丈夫だと思うけど、ここにはまだ水を引いてきてないから早く水を通してあげなけゃ。


「いや、責めているわけではない。今まで砂の民には国に貢献してくれていたのだから、責められるべきなのは我々王族だ。支援が出来なくて全く不甲斐無い・・・・」

「いや、皇都周りも今は大変だから仕方ないさ」


 ウォルは頭を下げながら言ったけど、グレタは全然気にしてなさそう。俺達は皇都に向かってるけど、皇都らへんも大変なんだ~。もしかして俺が思ってるよりウォル達の国って大変な状況なのかな?

 グレタの肩に乗りながら火事場や食事処、戦士たちが訓練してる場所を見せてもらったけどある事に気づいた。


「ねぇグレタ、あっちには何があるの?」


 案内してくれる場所が偏ってるのだ。色々な場所を回ったけど、西の方には近づこうとしないし人影も少ない。それに嫌な気配を感じるんだよね。


「あ~あっちは特に何もないよ」

「嘘」

「え?」


 絶対に嘘だ。今直接体に触れているから、俺には魂の動きが分かる。この動きは村に居た人達と似た魂の揺れ方だけど、村の人みたいに黒くてモヤモヤした感じが無い。なんならそれとは正反対で、少し優しさを感じる。


「今嘘ついたでしょ」

「っ・・・・」


 グレタ固まっちゃったけど、どうしたんだろ?


「グレタ、クーアに嘘は通じない。あっちには井戸があったはずだがどうしたんだ?」

「実は・・・・」


 ウォルに追及されたグレタはしぶしぶ話し始めたが、俺はレイランの探知の魔法をまねて先に見ていたからその内容は何となく予想が付いていた。


「皇子達がこの町を去った後の事なんですが。探知で水が枯れてしまっているのは分かっていましたが、もしかしたら届かなかっただけじゃないのかと思い私達で奥底まで掘ってみたんです。そうしたら、いきなり汚染した魔力が湧き上がってしまって・・・・浅はかな判断でした」

「なるほどな・・・・いや、ここの水不足は深刻だった仕方ないだろう」

「なのであそこは危険だから今封鎖してるんです」


 水不足を解決するために仕方なかった事なんだね。だからグレタはあっちに案内しなかったし、嘘をついても俺達を守るための嘘だったから優しい感じがしたんだね。


「危険なの~?」

「えぇ井戸は汚染された魔力で満たされてしまい、神官の浄化でも間に合わないんだ。汚染された魔力は魔物を生み出すので何とかしたいけど、どうする事も出来なくて」


 あ、さっきまで楽しそうだったグレタが落ち込んじゃった。ウォル達も難しい顔してるし、その井戸がみんなの顔を曇らせるなら、俺が何とかしてあげよう!


「じゃあ、俺がその井戸を浄化してあげるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る