俺、名前を教えてもらった


「皇子!ご無事で!」

「良かった・・・・本当に良かった」


「あぁもう大丈夫だ。色々と聞きたい事はあるが・・・・どうしてこの子は怯えている?」


 俺が助けを求めて抱き着いた人は、状況を理解できてないようだが助けを求めてきた俺を体を起こし背中に隠すと、他の3人を睨みつけるように言う。3人は起き上がったことに歓喜し、盛り上がっていたが睨みつけられぴしりと動きを止めると、


「いや、それは」

「何と言いますか・・・・」

「色々あってだな」

「この人たち心臓を捧げるとか言って怖いの!!!」


 俺が隠れながら言うと、優しい顔で俺を見て落ち着けるように頭を撫でた後、顔を険しくし睨みつけ威圧を出しながら、


「子供を怯えさせるとは一体どういう事だ。それに、心臓だと?まさか、お前達この子供の心臓を取り出そうとしたのか?お前達を信じているが事と次第によっては・・・・」

「ち、違うんです皇子!」

「そうです!誤解なのです!」

「俺はそんな事しない!」

「では、説明しろ」


 皇子と呼ばれた人の威圧によって焦りだした3人は皇子の前に跪くと、急いで誤解を解くために説明を始めた。


「実は、皇子が倒れた後この子供が突然現れ魔物か魔獣か、それか悪魔かと思い剣を向けてしまったのです。それで問い詰めたところ皇子を治してくれるというので・・・・」

「邪悪な魔力は感じませんでしたので私はてっきり精霊様かと思い、私の心臓を捧げ皇子を治していただこうと思ったのですが先に皇子を治して頂いたので今心臓を捧げようと」

「俺もウォルの治療を願ったからな。だから共に命を捧げようと・・・・」

「俺は治療しようとして下さったのに、剣を向けてしまった謝罪をしようと」

「それで、心臓をか・・・・なるほど、経緯は分かったが子供相手に何をやってるんだお前達は。君が治してくれたのか」

「うん」

「ありがとう、感謝する」


 今までの経緯を説明された皇子、名前はウォルって言うのかな?俺を優しい顔で撫でた後3人に振り返り眉間に皺寄せながらこめかみを押え顔を顰める。はぁ、と溜息をつくと皇子は一人一人をしっかりと見ながら


「お前達の忠誠に感謝する。だが、そう簡単に命を使おうとするな。もし俺の事を思うならば俺が死んだあとその力を最後までこの国に使ってくれ」

「しかし・・・・」

「それと、心配かけたな。すまん」

「皇子~~~!!!」


 困った顔をしていた3人はパッと笑顔になると、勢いよく皇子に抱き着きもみくちゃにしていくのを見ながら俺はこの人達暑くないのかなと思っていた。もみくちゃにされ5分ぐらいが経った頃ようやく落ち着き、俺の方に目を向けると皇子が頭を下げ


「改めて、治療してくれて感謝する。お礼をしたいが生憎手持無沙汰で、何か欲しいものはあるだろうか。城に戻れば大体の物は用意できると思う」

「要らなーい。欲しいもの無いし」

「だが、それでは契約の対価が無いだろう?このままでは、双方に被害が・・・・それともやはり心臓が必要なのだろうか」

「だから心臓は要らないってば!」


 困ったような表情をする4人。どうしてこの人達心臓心臓って差し出そうとしてくるの!?どうせくれるなら美味しい物とかが良いだけど!あ、それとさっきから思ってたんだけど


「ねぇねぇ」

「なんだろうか」

「契約って何の話?」

「・・・・?3人と契約を交わして俺の事を治してくれたんじゃないのか?」

「?契約なんてして無いよ?ただ、治してあげよ~と思っただけ」

「・・・・つまり、契約をしておらず対価無しで助けてくれたと」

「そうだよ~」

「本当にありがとう」

「「「ありがとうございます!!!」」」


 うんうん、元気になったみたいで良かった。


「だが、恩人に礼をしない訳にはいかない。欲しいものが出来たらどんなものでも用意しよう。いつでも言ってほしい」

「ん~分かった!」


 ここで要らないって言っても譲ってくれなさそうだし返事しとこっと。もしかしたらあの人形みたいに可愛いの見つかるかもしれないし。


「この恩一生忘れない」

「私達の出来る事なら何でも言ってね」

「何か欲しいものがあれば家の力全て使って大陸の果ての物だって見つけてみせるぜ」


 代わる代わる俺の頭を撫でていく3人。この人達良い人そうなんだよね~なんか一緒に居て落ち着くっていうかキラキラしてる。もし襲ってきたら悲しいけど、倒しちゃえば良いもんね。お願いしてみよっと


「ねぇねぇ」

「どうしたんだ?」

「俺、みんなに付いてっちゃ駄目?」

「いや、駄目ではないが・・・・俺達は今旅をしているんだ。その旅は険しい、子供が付いて来るには厳しすぎる」

「大丈夫だよ?」


 みんな難しい顔をして考え込んでしまった。俺飛べるし魔法もあるからみんなに付いてくのは難しくないと思うんだ。


「いや・・・・とりあえずは、近くの村まで送っていこう。すまない、名前を聞くのを忘れていた。俺はエルヴィラス皇国第三皇子ウォル・エルヴィラスだ」

「私は、エルヴィラス守護騎士団副団長アルベルド」

「私は、エルヴィラス魔法師団雫所属レイラン。皇子を助けてくれて本当にありがとう」

「俺はベルラン商店の三男シャールク・ベルラン!よろしくな!」

「?俺は俺だよ」

「・・・・そうか」


 名前を教えられない特別な事情があるのかと思った4人はそれ以上聞くことは無かった。ただ本当に名前が無いとは思いもせず。


「それでは、俺は恩人殿。貴方は精霊なのだろうか」

「違うよ~」

「教えてくれてありがとう。此処ではゆっくり話せないだろう。どこか休める場所に行こう」


 ウォルが言うと3人に言うと、俺を抱き上げ歩き始めた。


「俺歩けるよ?」

「礼にはならないが、これくらいはさせて欲しい。子供の足ではこの地を歩くのは大変だろう」

「・・・・は~い」


 俺飛べるから歩く必要なんてないんだけどな~ま、いっか。ウォルの気配は落ちつくし。少し歩き大きな岩まで辿り着くと、その岩陰に腰を下ろしなにやら作業を始めるみんな。


「何してるの?」

「野営の準備だぜ。もうそろそろ日が暮れるからな」


 地面を弄っているシャールクに訊くと、良い笑顔で答えてくれた。野営というのは、外で寝ることらしい。ウォルがあっという間にテントや風除けを作ると、レイランが荷物から何かを取り出し地面に置くとボッと火が噴き出した。


「うわっ」

「あ、ごめんない。驚かせちゃった大丈夫?」

「うん、何に使うの?」

「ここは夜になると急に冷え込んじゃうの。だから暖をとるための焚火を作ってるの」

「へ~」


 火は嫌いだけど人間には必要な物ってことは理解してる。俺を焼くための火じゃなくて良かった。


「皇子、周辺に魔物や魔獣は居ません」

「分かった」


 見回りに言ってたアルベルドが戻ってくると、あっという間に辺りは真っ暗になってしまった。

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