ニードル・ヘッド
渡貫とゐち
もしもの話「トゲトゲ人間」
狭い道でもないのに、前から衝突するかのように突撃してくるおばさんはどういうつもりなのか。……おっと、失言か、おばさんに限らず、だ。
男の人も女の人も、学生も似たり寄ったりだ。
空気を読んで避けてくれる人は多いが、その中でも比較的、避けずにぶつかってくる勢いで突き進んでくる傾向があるのが、おばさんだった――というだけのことだ。
俺が遭遇している人に偏りがあるせいかもしれないが……。
歩道は左側通行か右側通行か……。実際は右側通行らしいが、しかし、左と右で意見が割れているのが実際のところだった。
全員が当たり前のように知っていないのであれば、定められたルールも機能していないようなものである。
右側を歩いていても、無知な人に怒鳴られる、という事例もある……。
無知が悪い、と言うのは簡単だが、全員が当たり前のように知る機会がなかったのが問題とも言える……。青信号が進め、赤信号が止まれ――どっちがどっち? なんて意見が割れていたら、あっという間に事故が多発するのだから。
子供でも分かるくらいに、知る難易度を下げるべきである……。
左側を歩くべきだ、と思っている人は多くいるのだから――。
そうなのだ、だから別に、お互い、悪いわけではない。
空気を読み、どちらかが避ける……、だけど、避けた後でまたぶつかる可能性もある。お互いが避けることでわざわざ当たりにいってしまうケースも……。
避けるか突き進むか、その判断を一瞬でしろ、というのもなかなかできることではない。
ハンドサインでも決めていれば楽なのだろうか。避けるなら手を挙げ、突き進むなら手を突き出す……、そうしたサインを決めておかなければ、いつまで経ってもこの問題はついて回る気がする……。それとも左側か右側か、あらためて決めてしまうのは?
知らない人が多いのであれば、知る機会を設けるのと同時、あらためてどっちが良いのか意見を聞きながら決めてみるのは?
参加させてしまえば、人は覚えやすい。
決めたのなら、目の前に障害物がない限り、決めた側を歩くはず……。
だが、それでも中にはいるだろう、絶対に避けずに突き進んでくるやつが。
どれだけダメだと決めても破るやつはいるのだ……。もしも全員が素直に聞いて従ってくれるなら、犯罪なんて起きない。犯罪が止まらないから、罰則という制度が残り続ける。
ルールなんてなくても、人間社会の不都合を生み出さないのが理想だが……まあ無理だろう。
言葉では解決しない。
やはり、上から押し潰すように――もしくは痛みで教えるように、
『あなたの行為はダメなこと』だ、と証明しなければ改善なんてされないだろう。
利益か不利益を与えることで、人は学習していく。
そして、法という壁に囲われても、すぐに抜け穴を見つけ、潜り込もうとする……、そういう知恵だけはなにをしていなくとも育つのだ。
知識よりも知恵である。
法という知識は知恵で抜けられるのだから――。
さて、じゃあ今度は妄想の時間だ。
前方からやってくる、絶対に避けず、突き進んでくる人をどう避けさせるのか――。左でも右でもいいが、既に通行側が、あらためて一方で決められている社会で考えてみれば――。
やはり痛みを与えて学習させることが手っ取り早いか。
たとえば。
全身に鋭利な針が無数についたコートを羽織っていれば、危険を見た相手はおのずと避けるはずだろう……構わず突っ込んでくる可能性もあるが……。
それは相手が鉄の鎧でも着ていなければ成立しない。
痛み。避けずに突っ込んでくれば、痛い思いをする――こうすることで相手はほとんど、避けるはずだろう……、こうでもしないと避けないことも問題ではあるが。
しかし、そういうコートを羽織る、というのは少し手間だ……、相手に避けさせるためだけに無数の針で多少重くなっているコートを、冬ならいいが、夏に利用するのはしんどい……。
だからもっと手軽に――人間の機能にしてしまえば?
……つまり、半径五十センチの内側まで人間の体温が近づいた場合、毛穴から無数の針が飛び出して、相手を突き刺す体にしてしまえばどうだろう――。
見た目はなんの変哲もない人間だ。おばさんだろうがおじさんだろうが、学生も主婦も工事現場の作業員も変わらず、本人の半径五十センチ内に他人が踏み込めば、無数の針が飛び出し、相手を貫く――もちろん、痛みはある。
進路を変えて衝突を避けていれば……、こんな痛みを味わうことなどなかったのに……。
そういう学習を繰り返していれば、道を譲らない人間が減るのでは……?
気になるところは……、
相手を怪我をさせてしまった場合、刺した側に責任があるのか、ということだ。——事故が起きた場合、歩行者が悪くても車が割合的に悪くなる、というような理不尽なケースが毎回あると、安心して外を歩けないだろう。
だから、責任はどちらにもない……。
飛び出した針で相手を刺した側はもちろん、貫かれた側にも罰則は特にない。
自業自得による痛みが既に罰になっているからだが……、その怪我について、治療など、金銭的な負担など、一切の支援が政府から出ない。
その代わり、道を譲らなかったことへの罰則もないとなれば、『今度から道を譲ろう』と思ってくれるのではないか。
……悪いことをしたから痛い目に遭う……当たり前の話だ。
―― おわり ――
ニードル・ヘッド 渡貫とゐち @josho
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