第454話 前途多難
「私が小隊長?」
「能力にも問題はない……むしろ、能力だけなら騎士団最強だろう?」
その言葉に周りがザワッとした。そりゃあ私の一応の上司がそう宣言したのだから。
「まあそういうことだ。タダ、率いてもらう小隊のほうが問題なのだよな」
「問題が?なんですか、実力に難があるとか?」
「ある意味ではそうかもしれん……ついてきてくれ」
そうして連れられて向かった先は私が率いるらしい小隊のメンバーが待機している場所であった。そこに待っているのは数人の鎧を着た若い人たち……なんだが……
「ルイス様?」
「わっ!?べ、べべべベアさん!?」
吃音まだ治ってないのだろうか?そこには公爵家嫡男のルイス様がいた。
私が彼を襲っていたゴブリン達から助けた時以来、久しぶりに会ったが……彼も戦場に出るのだろうか?
「ルイス様、どうしてこんなところに?」
「ベアトリス、それはさっき言っただろう?ルイス殿含め、彼らが小隊のメンバーだ」
「ええ!?」
おいおい冗談じゃないよ、戦闘経験もないお貴族様を率いて戦えってか!?
「大丈夫です!家で剣の扱いは学んでいます!」
「は、はあそうですかルイス様」
剣を練習したからなんだというのだ。確かに戦闘経験のない平民よりかはそれなりに戦えるかもしれないが、戦場の恐ろしさを知らない人が本物の敵に相対できるわけがない!
しかもあれだろ?もしこの戦いで私の率いていた小隊の誰かが亡くなったとして、「自分の息子が死んだ!」とか、貴族達が騒ぐかもしれない。いや、絶対に騒ぐ。
もとより、死なせるつもりはないが。
「前途多難ですね、団長……」
「まあ、この小隊を率いれるのはお前だけだからな……」
「わかりました。率いるからには、私の小隊が一番功績を上げて見せますよ」
ルイス様の他にも数名の若者がいるが、この人たちもおそらく貴族の出なんだろう……それと、なぜかルイス様だけが嬉しそうな顔をしている。
「どうして表情筋がそんなにゆるいのですか?」
「え!?そうでしょうか……」
自分の顔をペタペタと触って確認するルイス。ポンポン?ポスポス?擬音が色々と頭をよぎる。
そんなルイス様の様子を見ていて、私はふとシル様に聞いた話を思い出した。
ルイス様が私のことを大好きと言って……
《主、照れても可愛くありませんよ?》
……せっかくの乙女気分が台無しになる台詞をどうもありがとうツムちゃん……。ルイス様もちょっと命を救われたくらいで簡単に惚れてたらこれから大変だよ?
そんなことを頭で念じながらルイス様の顔をガン見していると、
「ベアトリス?そんなに見つめると、ルイス殿が恥ずかしくて逃げてしまうぞ」
「そんなつもりはありませんが?」
ルイス様は顔を真っ赤にしながら、それを隠していた。
くそ!どうして私以外の照れ顔はみんな絵になるんだ!?
《主、諦めも時には肝心です》
私のことをディスった本人に慰められてもねぇ……。
「ルイス様方は私の指示に従ってくだされば結構です。どんなに激しい乱戦になろうとも、私が全員を生きて返します」
と、自分なりにクールを気取って言ってその場から逃げる。
小隊長かぁ……肩書きだけなら、中堅クラスってとこだけど……。カイラス団長が私のことを高く評価してみんなに聞こえるように言い放ったからな、この戦いが終わった後が大変そうだ。
私はただ単に手を抜く可能性がある大賢者マレスティーナの代わりにさっさと戦いを終わらせにきただけだから、それが済んだらさっさと帰ろう。
実は、日ノ本の方にはいつ異常事態が起きてもおかしくないように、分身体を残してきたのである。向こう居残っていたとしても、私のすることはほとんどない。
人脈もないし、やるべき仕事はみんなにお願いしちゃったし……あとはお兄様が到着するのを待つだけとなっていた。
強いていうなら、反乱軍と革命軍をどうぶつけるか考えるという問題があるな。だが、それは分身体の方に考えてもらうとしよう。
それに、こっちに本体を持ってくることでリハビリにもなるし、剣術の練習にもなる。足腰がまだ完治していないからね、その感覚を取り戻すのにぴったりな場所だ。
剣術だって、スキルがあるから扱えるけど、それがなかったら独学で学んだ隙だらけの剣術しか扱えなかったはずだ。それを治すためにもスキルを使わずにできるだけ戦っていきたい。
ま、マレスティーナが出陣しているんだし、少なくとも私たちが負ける道理は一切ないだろうからね。安心安全な戦場でございます。
そんなことを考えていながら、ブラブラとしていると途端に警笛のようなものが鳴り響いた。何事かと思っていると、
「敵が攻めてくるぞ!」
《どうやら出陣の合図のようです》
そういうわけなんでじゃあ、ちょっくら行ってきましょか!
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