第455話 常識の崩壊
「さあて、私はどうしようかな」
特に命令も下されないまま出陣してしまった。後ろにはルイス様たち貴族の嫡男が数名。
ふうむ、むやみに突っ込んだら後ろの子たちが先に死んでしまう。
「あ、そうだ」
わざわざ貴族家の子供たちが戦う必要はない。つまり、私が敵全員相手にすればいいだけの話なのだ。
少しくらい手加減しないと、逆に敵の方が壊滅してしまう気がするが、それくらいのハンデがちょうどいいかもな。
「というわけで、敵陣に突っ込むよ!」
「は、はい!?それは危険じゃないですか!?」
「私が……えっと、僕が全員守るから大丈夫だよ!」
自分の設定を完全に忘れていた。騎士団のみんなの前では女ということが知られているが、ルイス様には男だと思われていたのを……騎士団に入るにあたって女だと入れづらいということから男に化けることになったけど……。
《どうやら、鎧の金属の匂いでバレていないようです》
獣人たちは相手の匂いで性別が分かるらしいからね、よかった……。
「突撃!」
私の声に従って小隊のメンバーはおどおどしながらも私に続いていった。
うじゃうじゃとゴミのような溜まっている敵軍が私たちの方に気づいて、こちらへ突っ込んでくる。
私の後に続いて他の隊もどうやら特攻しているようだし、あとは私の方に向かってくる奴らを蹴散らすだけかな。
まず手始めに先手はもらおう。
「ふん!」
私の獲物はもちろん大剣。それを盛大にぶん投げる。
武器を投げるとは思っていなかったのか、敵はかなり動揺しその隙のせいで私の大剣に真っ二つにされていく。
ルイス様達には酷な光景だろうけど、親はそれを承知で戦場に送ったのだろう。
貴族の務め……というやつ。戦場を経験するのも務め。
前世も女でよかった……。
そして、投げた大剣はまるでブーメランのように私のもとへ返ってきた。
「ど、どうやったんですか?」
「え、普通に投げただけです」
「アレのどこが普通なんですか!?今ので何人を倒したんですか!」
「うーん……ざっと145人ですね!」
「正確!?」
昔から正確な数字を言うだけでみんなに驚かれていた。勇者からも驚かれた特技である。
「これで、相手の士気はだいぶ下がったはず。行きましょうか」
私は綱を引っ張って突進する。
実は実は馬に乗りながら大剣をぶん回していた。重量オーバーぎりぎりだったが、乗っている馬が優秀だったからかどうにかバランスを保っている。
私の突進に合わせて、大剣を振り下ろす。それだけで二人ほどが一気に切られた。
「回り込め!数で潰すんだ!」
伊達に数をそろえているだけあって、私たちは簡単に囲まれた。しかし、それだけで勝とうなんざ百年早いというものだ。
ルイス様達に放たれる攻撃を私が放った超手加減魔法で吹き飛ばす。剣ごと吹き飛ばしてしまったから、はたから見たら上位の魔法を放ったように見えることだろう。
実は低位もいいところ……低位どころか生活魔法と名高いそよ風を起こす魔法なのだが。
「気をつけろ!魔法も使えるぞ!」
「どんな威力してるんだ!?」
敵軍がまた混乱に巻き込まれるそれのおかげでルイス様達への攻撃は止んだ。
「こいつは危険だ!早く殺せ!」
私に向かって無数の槍が飛んでくる。本来であれば反応もできずに串刺しになるのが関の山なのだろうが、私からしたら遅いこと極まりない。
私はそれを難なく避ける。馬の背中を使って私は空中へ飛び上がり、お返しとばかりに大剣による回転切りで相手を一掃した。
「化け物……」
馬の上に着地したピンピンしている私を見て誰かがそう呟く。もう言われ慣れた。
「仕方ない!ほかのガキから殺せ!」
あ、待ってそれは聞いてない!私への狙いがそれて……というより、私のことなんかいなかったかというようにガン無視でルイス様達を狙い始めた。
「殺させるわけにはいかないの!」
《主!力みすぎです!》
「え?」
気づけば魔法に込める魔力を多くしすぎていた。それを放った後だから、もう後の祭りもさることながら、目の前に広がったのは巨大な竜巻……。
それが私たちを中心に敵軍を吹き飛ばしていく。
将軍に教えてもらったイメージの力によって、私の魔法は今できる範囲で最大限の火力を誇る。
そのおかげで……そのせいで、魔法の竜巻が晴れた後に広がっていた光景は、さっきまでゴミのようにうじゃうじゃといた敵軍が見る影もなく……文字通り全員がきれいさっぱり消えていた。
「あ、あれ?もしかしてやりすぎた?」
やりすぎたどころの話ではない。どこか違う戦場まで吹き飛ばしてしまったかもしれない。
「これは後で怒られそうだな……」
「あのベアさん。いったい何がどうなってるんですか?」
「ああ、これが私の戦い方なんですよルイス様。ええ、はい……言いたいことは分かりますけど、騎士ならこれくらいできて当然なのです!」
「そうなんですか?」
「はい!そうなんです!これは敵軍が弱すぎただけなので、私はなんにもおかしくありません!」
ルイス様達の常識を犠牲に私はどうにかその場を誤魔化した。
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