第442話 解除
都へ禁止令が出されてちょうど一週間が経過した。私のやることは変わらず修業に明け暮れている。
「最高に今気分がいいわ!もっと!もっとよ!もっと高強度トレーニングを!」
《主、頭がおかしくなりましたか?》
「うっさい!こっちは暇なのよ!」
一向に禁止令が解除される気がしない。ただ、この手は将軍にとっては悪手な手なので、そう長くは続かないはずだ。
「よし、こうなったら私がやることはただ一つね!」
最近は将軍はこっちに乗り込んでこない。だったら、私の方から乗り込んでやるのみよ!
というわけでレッツゴー!
♦
屋敷の目の前には複数の警備兵が警戒を強めている。完全に私のせいではあるのは明白だけれど、小娘一人にここまでするか?
まあ、私の方から乗り込んできてはいいものの……
「うーん、どこが将軍の部屋なんだ?」
正直、いくら警備を厳ししても私の姿を捉えることは出てきていない。意味が全くない。
そのおかげで私はゆっくり隠密しながら、屋敷の周りを見て回れるけど、そういえば将軍について私は全く知らないということを思い出す。
「まあいいや、適当に入ろう」
と思い、適当に空いてる窓の中へと飛び込む。そこは明かりもついていない真っ暗な部屋だった。
(シンプルイズベスト?)
何も置かれていない、正確には大きな鏡と小さなベッドくらいしか物が置かれていないほど断捨離されていた。
私がそんな少しだけ異様な光景を見つめていると、視界の端で何かがきらめくのを感じた。
「――!」
嫌な感じがしてそのきらりと光る何かを避ける。暗闇から現れたのは将軍だった。
「ちょっ!?」
一撃を避け、窓から中へと入り態勢を直すと、以前対峙した時とは比べ物にならないほどの速さで近づいてくる。
「うっそ、ちょっと待って!?」
二撃目三撃目を避けて、状況が掴めないまま私は反撃をする。まあ、簡単に避けられたけどね!
「しまっ――」
鋭い抜き手が私の顔に近づいてくるのを、咄嗟に大剣を取り出すことでどうにか防いだ。
そして、将軍は眠そうな声で言った。
「私は、なにを?」
「何をじゃないよ!いきなり襲い掛かってきてなんなのよ!?」
こちとら今死にかけてたんだぞ。今の抜き手が顔面に当たったら、頭スパーんされてたよ!
大剣をしまって将軍の顔をよく見てみると、本当に寝ぼけたような顔をしていた。
「そうでした、私は今まで寝ていたのです」
「寝てたの!?」
「私は寝相が悪いらしく、寝てるときにしていることは私にも制御が聞かないのです。すみません」
「寝相が悪いの次元超えてるでしょ?本気で組み合ってたんだけどこっちは?」
明らかに倒しにかかってたよね?寝相だったらもはや病気だよ。夢遊病だよ。
病院行こうよ……。
「それはそうと、どこから入ってきたのですか?」
「え、普通に窓からだよ」
「窓?」
「そこ以外に簡単に入ってこれる場所なさそうだったし」
やろうと思えば正面からも簡単に侵入できるが、万が一見つかった時がめんどくさそうだったので、やめておいた。
私がここまで入ってきた経緯を説明してふと顔を上げると、将軍の目から一筋の涙がたれていた……ってなんで!?
「ご、ごめん!やっぱり窓から入るのはマナー違反だった!?」
「いえ……違うのです。ただ、懐かしかっただけで」
「懐かしい?」
「それはそうと、今日はどのようなご用件で来たのですか」
「切り替えはや!」
さっきまで無表情で涙を流す暗がりの女という少々不気味な絵づらになっていたのが、途端に無表情で近寄ってくる暗がりの女という恐怖映像に早変わりした。
うん、どっちもひどい。
「将軍、そろそろ禁止令を解除したらどうなの?」
「禁止令ですか?そういえばそんなものだしましたね」
忘れてるし。
「宿の人たちもこれ以上貸し切ったりすることはできないって言ってるし、それに商人さんたちも商売に影響が出てるよ。だから、そろそろ解除しないと民衆の不満が爆発しちゃうわ」
言っていることは本当。これ以上たった数人のために宿を貸し切りにしていたら入るお金も入ってこないし、商人は商売あがったりで利益ゼロだ。
将軍はそのことについてどう考えているのかと思ったが、考えるまでもなく返答した。
「わかりました、解除しましょう」
「あら、案外アッサリだったのね」
「懐かしいことを思い出したついでです。ですが、あなたにはまだこの国にとどまってもらいますよ?」
「……」
やっぱ私狙いか。
こんなほんわかしてそうな会話の裏で壮絶な心理戦していると誰が想像できるだろうか?なお、現在私がぼろ負けの模様。
田のみのツムちゃんも将軍の行動は予想外で分からないらしい。
《失礼ですね、まるで私がばかみたいじゃないですか》
馬鹿とは言っていないけど、わからないのは本当でしょう?
とはいえ、国から出るつもりはまだ毛頭なかったので、全然問題ナッシング!
ということで、禁止令が解除されただけましと言えよう。
「それとベアトリス。私からも一つお願いがあります」
「ん?なに?」
「私は軍部や政治を直接掌握しているわけではないと依然言いましたね?どうやら、新たな『仙人』というのが見つかったらしく大騒ぎしているようなのですよ」
「へ、へぇ……」
あれ、なんだか嫌な予感がするぞ?
「もし、その仙人とやらを見つけたら私の元まで連れてきてください」
「つ、連れてきた後その人には何をするの?」
「そうですね、新参の仙人という珍しい事例なので、半殺しに叩き潰す程度で許してあげましょう。我々のような『守護者』の立場というものをしっかりと叩きこんでやります」
「ひっ……」
「どうかしましたか?」
「いえ!?なんでも!?」
……あれ?もしかして私、ピンチ?
絶対にその仙人とやらは私のことじゃないか!やばい、バレたら半殺しにされる!
どうにかばれないようにこのまま永遠に秘密にしておこう。もちろん、私が幕府に見つかって捕まったら終わりだけど。
(捕まるわけには絶対にいかない!)
私はそう固く決意した。
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