第443話 粒子化

 なんやかんやですんなりを許可をもらってしまった。これですぐにでも外に出れるようになるだろう。


 宿に戻った私は早々に帰宅の準備を始めた。


「お兄様、明日になったらおそらく禁止令が解除されると思うので、今のうちに準備するようにみんなに伝えてください」


「お、おい!まさか、また何かやらかしたのか?」


「どどど、どうしてそうなるんですか?そんなわけないじゃないですかーやだなーもうー」


 将軍の住んでる別邸に凸ってきたとか、そんなわけないじゃないですかー。


 ひとまず、これで今日はやることがなくなった。部屋に戻ると、ようやくひと段落ついた感じがした。


「早く反乱軍の人たちに計画についてはなさないとね」


 市民の反感を買っている反乱軍を新たに改名した『革命軍』が倒したことにして、幕府に抗議する……少なくとも政変するには、十分だろう。


 反乱軍を討伐しきれなかった幕府軍は田舎の人たちからかなりの反感を買っている。そして、さっきまで発令されていた禁止令で都の人たちに不満も溜まっていることだし、タイミングはちょうどいい。


「と、試したいこともあったんだよねー」


 今まで魔力操作という能力を身につけるために訓練してきたが、それに伴い、もしかしたら新たに使えるようになるかもしれない能力があった。


 それが、『粒子化』である。


 スキル『世界の言葉』の権限レベルが上がると同時に、というより、死んで生き返ったらいつの間にか手に入れていたこの力、本来使用すれば制御できずに体が粒子となって消滅してしまうという恐ろしい能力ではあるが、魔力操作を覚えた私にかかれば……


「粒子化!」


 体が淡く発光したかと思うと、それらはまるで幻だったかのように崩壊し始めた。


 《早く魔力操作を!急いでください!》


 言われなくてもわかってるって!


 私はその朧げになっていく肉体を見ながらそれらが元の位置に戻るように魔力で指令を出す。留まれと念じ続け、それらをイメージで作った私の元の肉体と結びつける。


 粉のように変化していた体が一時的にその動きを止めた。淡く発光している私の体の一部がバラバラになりかけたところで止まっているというのもなかなかシュールだけど……このまま頭の中でイメージを固める。


 イメージが弱いと一生このままだ。


 私はイメージを強める。すると、粒子は自分の位置を覚えていたかのように元あった場所まで戻っていく。


 それらはピッタリと私の体にはまり、私の体は普段の私となんら変わらない見た目へ戻った。


「やった!粒子化成功よ!」


 《まさか本当にやるとは……普通であれば権限レベル3の段階で覚えることのはずですが……》


 さすがは私だ。


 《自惚れないでください、才能があっても天界で暮らす者たちの中では雑魚もいいところですよ》


 冗談なの!だから間に受けてそんなこと言わないでよ!


 でも確かにそうなんだよなー。流石に雑魚は言い過ぎだが、私は座天使と同レベルの能力しか備わっていない……いや、将軍を馬鹿にするつもりは一切ないのだが、それでも上には上がいるのだ。


 最高位天使である熾天使は一体どれくらいの強さなのか。ユーリの本気の姿も見たことないし、これに関しちゃ未知数。


 少なくとも能力の半分以上を封印されたユーリが座天使レベルということを加味すると、少なくとも座天使の二倍以上のステータスと能力を有しているという計算になる。


 おおこわいこわい。何が恐ろしいかって、私がそんな熾天使に対抗できるほどのユーリを子供の頃にペットとして連れてきたことである。


 先代魔王をペットとして飼うって……どこのラスボス?


 まあいい。とにかく今はこの肉体の方が気になってしょうがない。


 特に体に違和感というものは感じないが、私が自分の体に触ろうとすると、するっと通り抜けてしまった。


「ぎゃあ!?」


 《安心してください、粒子化した結果の現象です》


「そ、そうだよね……幽霊みたいになっちゃってびっくりしたよ」


 そしてもう一つ気づいたことがあるといえば、体が異様に軽いことだ。まるで私の体重から解放され、さらに重力からも解放された……そんな気分。


 今の状態で走れば、将軍のあの素早さすらも超えることができるはずだ。よし、これ有用。


 《そして、一番の利点を上げさせていただきますと、粒子化した状態だと相手の攻撃が魔法関係物理関係、どちらも通用しないということです》


 そうなのだ。今の状態の私には一切の攻撃が通用しない。疑似的なマレスティーナの無効化結界の中にいるみたいな状態だ。


 《ただし、我々からの攻撃も当たることはなく、さらにエネルギー体を有している智天使以上の存在には通用しないということです》


 攻撃が当てられないのは非常に悔しい。そして、これは私よりも上位の強さを持つ奴らには通じないというのが勿体無い点だ。


 エネルギー体ということはすなわち、粒子体よりもさらに細かで高濃度な肉体であるということ……つまり、エネルギー体というのは粒子体の完全上位互換だ。


 《その中間に『光粒子体』が存在します。これはエネルギー体に粒子体が片足を突っ込んだ状態であると言えます。これを一時的ながらも扱うことができる個体名・フォーマは異常と言えるでしょう》


 流石である。これに関して言えば、フォーマは天使たちと戦うための切り札となり得るということだ。


「さっさと日ノ本の内戦を落ち着かせて早く帰国しよう。そして、フォーマを探し出して合流しなくちゃ」


 そう思うと俄然やる気が湧き、私はしばらくの間粒子体をキープするのだった。

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