第441話 反乱軍(居残り組視点)

「というわけで、ボクは魔王を志すのだった!」


「重ーい!重すぎるわ!なんなの思い出話とかいうのを期待していた私!?別に無理やり聞き出そうとしたわけじゃないのよ許して!」


「ミサリー、別にボクはきにしてないよ。それに今となっては昔のことだからね!」


「その明るいテンションもつらいからやめて!?」


 予想外な話が飛び出てきて困惑する一同。


「でも、とてもためになる話だったよ……どこかの童話に出てきそうなお話だ」


「実際出てきてもおかしくないくらい年月立ってるけどね」


「この後に話すのはなかなかつらいんだけど……」


 しょっぱなから飛ばしすぎた末路である。


「ええい!中止だ中止!お腹はもう一杯です!」


 というわけで、昔話はいったん中止となりました。


「ふう……どうせまだまだ日にちはあるのです。その時にみんなのお話を聞くとしましょう」


「この話についていける気はしないんだけど?」


「それでも何とか頑張ってくださいレオ」


「ミサリーさんはそろそろ僕の呼び方を決めようね?さんだの君だの……まあどれでもいいけど」


「じゃあ呼び捨てで!」


「わかったよ」


 みんなが手に持っていたコップに入った飲み物を飲み干したころ、扉がノックされた。


「みなさーん、いらっしゃいますかー?」


「ああ、あなたは!組合の受付のお姉さん!」


 そこから入ってきたのはいつぞやの受付だった。


「早く外へ出てください。なんだか怪しい武装した集団がこっちまで押し寄せてきていますよ」


「なんですって?」


「ミサリー様もいらっしゃったんですね。どうかその御威光を示してください」


 その場にいた全員が席を立ち、部屋を出た。外へ出ると、ひと昔前の景色のように住人たちは自分の家へ引きこもって誰も顔を出していない。


「また戦う気なんですかね。反乱軍は」


「全く以て腹立たしいね。ボクとレオを利用した罪は受けてもらうよ」


 やる気に満ち溢れていた面々だったが、目の前に広がる光景を見てその気もすぐに失せてしまった。


 街の外へ出ると、武器を地面に置き手を頭の後ろで結んでいる武装した集団がいたからだ。


「失礼、この街の民とお見受けする!どうか我々の話を聞いてくれ!」


「何がどうなってるんですか?」


 いきなり現れたその者たちは戦うでもなくただ降伏の姿勢を取っている。


「さあ?黙って殺されに来たのかな?」


「ちょ、物騒なこと言わないでください!」


「いつも一番ノリノリで戦ってるのミサリーのはずだけどなー」


「そ、それはいいとして!今さっき話を聞いてくれと言っていたでしょう?聞くだけ聞いてみますか?」


 そう思い、念のため戦う準備はしつつその者たちに近づく。


「はあ、よかった……このまま石を投げつけられるかと思いました」


「そんなことを言うということは……あなたたちは反乱軍?」


「……ええ」


 代表として言葉を発した男は重々しい口調でそう告げる。


「今更坊ちゃまの領へ何しに来た。こちらには貴様らを皆殺しにする武力も権利もあるぞ?」


「ちょっと、ミサリーさん。やっぱりノリノリじゃん」


 実際に現れた反乱軍……約数百名……を返り討ちにするにはミサリーだけでも十分事足りる。


 それが実力の差。完全武装をしていて、数百の大軍で更に鍛え上げられた兵士……だったとしても、そのステータスは一万に届くはずはなく、千を超えるか超えないかという微妙なラインだ。


 その程度のステータスしかなければ万越えのミサリーに蹂躙されるだけ、爪痕すら残せないだろう。


「俺たちは……謝罪しに来たんだ」


「はい?」


「勿論誤って許してもらえるとは到底思っていない。それだけの過ちをしてしまった……あの時の俺たちはどうかしていた。まるで誰かに操られているかのように意思と反した行動をとっていた。その理由はよくわからないが……」


 その話を聞いて思い当たる節が一同にはあった。


「ミサリー、これって……」


「ええ、ユーリちゃんたちと同じですね」


 ミサリーは改まってその男の顔を見た。


「おそらくあなたたちはとある『男』に操られていたのですよ」


「やはりか!」


「ええ、ですがその男は我々で討伐しました。よって、洗脳の術も解除されたのでしょう」


「やはりそうか……俺たちはできるだけ平和に政府を変えるつもりだったのに……これでは誰も俺たちの味方になってくれないな……」


「政府を変えるということはやはり、あなたたちは敵なんですか?」


「ち、違う!この政府は腐ってるんだ!田舎民にはとても払えないような重税を課して、都至上主義の奴らなんだ!」


「ほう?」


 それは初耳だった。この街もそれなりの田舎にあるが、誰もそんな不満を口にしていなかったからだ。


 しかし、今になって考えてみれば、命を懸けて逃げまどっている最中に重税がどうのとかほざいている方がおかしかったのだ。


「つまり、田舎も都も平等な政府に作り替えるおつもりで?」


「そうだ……そのためにも、まずは平和的に協力者を募って幕府に抗議するつもりだったが、洗脳を喰らってしまい反乱軍という汚名を頂戴してしまったのだ……」


 どうにも反乱軍の面々は弱っているようだ。他の顔色も窺ってみるが、誰の顔を見てもその表情は暗かった。


「そうですか……わかりました。話だけは聞きます。どうぞ中へ」


「あ、ありがとうございます!」


 そうして、ベアトリスの知らないところで反乱軍もまた動き始めるのだった。

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